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ashcafeのブログ

映画、音楽、ミステリー、SF.カフェと街のぶらぶら散歩が好き。

チャンドラーを読むのは楽じゃない。洒落た文体に流されるのは気持ちがいい。しかも村上春樹という一種の達人による翻訳なのだから、その快楽は筋金入りだ。

ただその張り巡らされた伏線をきっちりと追いかけるのはそんなに簡単ではない。だからチャンドラーの長編を読むときには、人物関係図を書きながら読むことになる。

伏線のはりすぎだよと思うこともしばしば。しかも誰かを殺す時の動機も簡単明瞭で白黒はっきりされているわけでもないので、読み終えても、不安を感じるというのがチャンドラー体験だ。

今回のマーロウもその好奇心から刑務所出の大男の引き起こす事件に巻き込まれてしまう。決して愉快とは言えない大男のつかの間の交流の中でも、彼の真実に惹かれてしまうという彼の致命的な欠点というか美点が発揮される。このどうしようもない大男に、ロング・グッドバイのテリー・レノックスへ与えたものにも似た友情のようなものを感じるのだ。捨てている人間への愛情のようなものがマーロウのライトモチーフだ。この大男が昔の恋人ヴェルマを探しながら犯す犯罪の捜査に微妙に関わりながら、事実を追求するマーロウに危険が迫る。彼が暴きだしかねない真実を恐れるものが存在するからだ。

登場人物たちも多彩で魅力的だ。マーロウに惹かれる赤毛の美女アン・リオーダンのこんな台詞が深く響く。

「ただひとつ覚えておいた方がいいことがある。それは、あなたはこのショーにはかなり遅れてやって来たんだってこと」

定義上、探偵というのは事件が起こってから登場するものだ。そしてそれは、何も知らない世界にぽんと放り出される人間というものの存在そのもののようにも思える。

探偵小説というものに対する読者の切実な思いはそんなところにも原因があるのかも知れない。



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