「でさでさ、怖いよねぇ。あれ」
「ん。だな。怖い」
「そうそう、なんでも都市伝説になっちゃってるそうじゃん?」
「そうだな。なっちゃってるらしいな」
昼休み。それほど甘美な響きは、「放課後」以外にないであろう。
俺はいまその真っ只中にいた。食堂で適当に買ってきたパンをかじりながらの平穏なひとときだ。
「気をつけないとねぇ。ああいうの。だって老若男女問わずだそうじゃない?」
ガヤガヤとうるさい教室では皆思い思いの場所で、げらげらと笑い転げたり、小突きあったりしている。
こういう雰囲気は嫌いじゃないが、喜んで突撃するような趣味もない。
「それにこの学園からも出てるらしいじゃん?昔に。たいそうな優等生だったらしいけど。っあれ?なんってたか
な?名前。まぁいっか。 それよりさ、何で今日は食堂でパンを買ったりしたの? いつもならコンビニで買ってくるのに」
「あ?いや。寝坊したんだよ今日。」
嘘だった。ただ近づきたくなかっただけだ。あれは、昨日の今日で忘れられるような出来事じゃない。
あの妖怪布巾着め。今度あったら、正当な方法で叩きのめす。絶対に。
「どしたの?物思いにふけるような顔するなんて。みっちゃんにあるまじき行動じゃない?」
「何?なんか言ったか?」
「別に?」
先ほどからなれなれしく話しかけるコイツは、浅野 秦(通称しんちゃん)である。
高校入学時にたまたま仲良くなったのがコイツで、それ以降親しくしている。かなりの情報通らしく、常に口からは、最先端をいく情報を得られる。ちなみに、全米が泣くほど腹黒かったりする。
「ところでさ、今日ミキちゃんは?」
「知らん」
「嘘だぁ」
「だから知らんて。今日は部活の集会じゃなかったか?あいつはあれでも、期待の新星だろ?」
「そーいえば。うん。だね」
そういえば、最近調子はどうなんだろうな。後ででも聞いてみるか......
「あ。そうそう、それでね、さっきの話に戻すけど」
「なんだっけ?」
「えぇー。まぁーた聞き流してたの?はぁ。だから、ニュースになってるさ、あれだよ」
「ああ。あれか」
”あれ”たぶんコイツが言っているのは、例の連続怪死事件のことだろう。
ある日、被害者が失踪。その後に、遺体となって発見されるわけだがその遺体の死因がバラバラ。
狙ったかのようにちがう。すでに5回も起きているが、皆死因は異なっている。
すべての遺体は失踪と気づいてから二日経過程度に発見されたらしい。
もちろん、発見された場所も、時間も、発見者もみな一貫性がない。
だからこそ、警察もなにか睨むことがあるのだろう。案外世界は、狭いもんだ。
少しくらい共通点があったとしても不思議ではない。
「あの事件、どうなるんだろうね。この辺にあんま詳しくない都会の評論家あたりが押しかけてきてピーピー
うるさいんだよ。これは、紛れもない凶悪殺人だーとか犯人の性格をプロファイリングだーとか」
「ん?なんでそんなことを気にする...ってそういやお前んち警察だったか」
「そのとおり。電話が止まないんだよ。取材、取材ってね」
浅野の家は、昔から代々警察の一家だ。といってもたいそうなものではないらしく、警察というのはあくまで形式だけであり、ちょっと大きな交番のようなものだと本人は言っていた。
いまのそこのトップが、浅野の父親であるらしい。そりゃ、ボーっとしてても事件に関与する情報が入ってくるわけだ。
「で?評論家はなんて?」
あまり興味はないが、ここで終わらせるのもな。むしゃむしゃとパンをかじりながら聞いてみる。
「なんだか、この事件は臭うぞって。パパも同じこと言ってたよ」
「なあ、秦」
「なに?」
「どうでもいいがお前ってパパって言うんだな...顔の引きつりが隠せないぜ?」
「ほんとにどうでもいいね。話を続けるよ?」
秦はそっけなく言い、続けようとする
「待て。どうでもよくない。とってもよくない」
「え?なんで。だってどうでもいいとか言ってたじゃん?」
「いや、だからあれは建前ってヤツで......ってもういい。で。続きは?」
秦は持っていた箸をパチパチと動かしながら話し始めた。
「この事件、5回起きてるじゃない?そのうちの4回、事件が起きる前くらいに被害者が、病院にお世話になってるんだよ」
「病院?それって倉敷医院のことか?」
「そう。そこしかないでしょ」
倉敷医院そこはこの辺じゃたった一つの病院で、ぷっくり膨れた気のいい倉敷さんを院長に、毎日精進しているらしい。