「いらっしゃいませぇー」
やる気のない声が聞こえた。
声のする方を見ると大学生だろうか、長めの金髪をだらしなく垂らした青年がいた。
コンビニというのは偉大だ。人を落ち着かせるスポットである。
いまや、我が家と同等の落ち着きを覚えるコンビニを見回しながら、ウンウンとうなずく。
アイドルのキャンペーンかなにかだろうか。同じような顔がプリントされたものがところ狭しと並び、
中には神々しく天井近くにつるされているものもある。
断っておくが、私は別に”時代遅れ”なのではない。
一、高校生としての健全な精神を持つこと。
これを挙行しているにすぎないのだ。世の中にはびこる煩悩の数々・・・・・・・
私は、勇敢にも、それに抗おうとしているのである。
「いらっしゃいませぇー」
二度も言わんでいい。いまから言い訳を積み上げようとしているのに。
一人でウンウンとうなずいてみる。 さらに畳み掛けるとしよう。
ツンツン
そもそも。いち高校生である自分が、勉学に励まずいったい何に力を使えばよいというのか。
そんな唯一の仕事である勉学さえもろくにできなくてどうするというのだ。
ツンツン
言ってて、痛いのは自分自身だ。心が折れそうだ。だが、あくまで私は退く気はない。
では、続けようか。・・・・・・・・まず。よくよく考えてみれば、だ。
ドンッ!!
「え?」
一瞬何がおきたのか分からなかった。
今の俺は、自分が新幹線並の速度で突き進む時代の流れに決して乗り遅れてなどいないということを誰とも言わぬ不特定多数の人間たちに必要のない弁解をしていたはずだ。
「どきたまえよ。君。ここは出入り口だよ。というか出入り口でなくとも、ボクの進行方向に対して、平行以外の
行動をとるのはあり得ないだろう」
どこからか声がした。・・・・・はっ!!これはまさかっ!
つつつついに、俺に霊と交信する力が・・・・いや。この際宇宙人でもいいかな。
「・・・聞いてるのかい?遠まわしに、どけといったのが悪かったかな。んじゃ、簡潔に。邪魔だから一歩。いや。
二歩。むしろ4キロでもいい。とっとと失せるんだ。」
この感じ。地の底からわきあがるような声。というか足元から。
「おい。おい。おい。聞こえてるのかい?死んでるのかい?」
やめてくれ。俺はまだ高校生だ。宇宙の果てなど見たくない。この世界にはまだ遣り残したことがあるんだ。
バイトも、まだ長にあいさつしてないし、家のヒワイナショモツも片付けてないんだよ!!
「あきれたな・・・。いや、見上げたというべきか。そもそもこのボクを物理的に見上げさせている時点でさらし首
も同然なんだけどね」
わかった。わかったよ。もういい。この世界には未練なんてない。もうどこへなりとも連れて行くがいい。
もしその先にウネウネしたタコのような化物がいるんだとしても、狼男でもゴジラでもかかってくるがいいさ!
「おい。少年。これはたぶん最後の警告だ。”どけ”」
俺は両の手を力いっぱいのばし、心で叫んだ。「地球よ、またな!俺の過去はお前に預けたぜ!!」
「フン。時間切れだ。残念だよ」
ッッッ!!!!!
足に激痛が走った。そう。まるでこれはタンスにぶつけたときのような。いや、何かの拍子に指を踏まれたような。それもあきらかな悪意を持って。
「ってぇぇ!!」
「どけというに」
俺は周りを気にせず悲鳴をあげながら、声のするほうをみた。
そこにあったのは、というよりいたのは、俺の胸の高さぐらいの布の塊だった。
「 よし。どいたね」
布の塊は高めの声で満足げにしゃべると、ぴょこぴょこ歩き出した。
・・・・なんだ。フードをかぶったガキか。それを知ったとたん、急に今までの脳内ドラマや、悲鳴が恥ずかしくな る。
気づくと俺は、走り出していた。トコトコとパンを両手に抱えているガキに恨めしげな視線を向けながら。
コンビニに背を向け、走っていた。 足が、痛い。
憎たらしい顔をして、足をかばいながら走る俺は、完全にチャップリンの域だったと思う。
同級生に会わなかったのは、神の慈悲だったのだろう。
俺は、半べそをかきながら家へと走った。顔も分からぬ布星人への怒りに血をたぎらせながら。
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