「姑息な手段」はひきょうではない!? | 伝わる・喜ばれる文章講座

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「姑息(こそく)」という言葉から、どのようなイメージが湧きますか?

「姑息な手段を使うやつだ……」などと言うと、相手がひきょうでずる賢いように聞こえますよね。

 

しかし、この「姑息」という言葉のイメージは間違いです。

「姑息」の本来の意味が答えられるでしょうか?

 

「姑息」とは「一時しのぎ」「その場のがれ」といった意味を表す言葉です。

 

姑息の「姑」という字は「しばらく」、「息」は「休む」という意味です。

これらの2文字が組み合わされて「しばらくの間。息をついて休む」という意味になります。

ここから「一時しのぎ」という意味で使われるようになりました。

 

ですから、冒頭で例に挙げた「姑息な手段」は「一時しのぎの手段」であって、「ひきょうな手段」ではないのです。

 

このほかにも「姑息」は「姑息的治療」のような医療用語でも使われます。

「一時しのぎの治療」という意味ですので、疾患の根治を目指す治療以外の医療行為を指します。

もちろん「ひきょうな方法による治療」ではありません。

 

平成22年度に行われた「国語に関する世論調査」では、「姑息」を「一時しのぎ」と答えた人は15.0%、「ひきょうな」という意味と答えた人は70.9%と、後者のほうが圧倒的に多いことが分かります。

 

年代別に見ると、本来の「一時しのぎ」と答えた人の割合が最も高かったのは60歳以上の19.5%、誤った意味の「ひきょうな」と答えた人の割合が最も高かったのは20代の86.7%でした。

 

若年層のほうが誤用が多く、年齢が高くなるにつれて本来の意味で使う人の割合が高くなっています。

 

なぜ「姑息」は「ひきょうな」という意味で使われるようになったのでしょうか。

 

「姑息な手段」をよく使う人は、一時の間に合わせに過ぎない判断をしがちな人です。

その場をどうにか乗り切れればいいという考え方をするわけですから、「ずるい」「ひきょうだ」という印象をもたれることでしょう。

ここから、姑息=ひきょう、というつながりが生まれ、しだいに姑息という言葉の意味として広まっていったのではないかと考えられます。

 

あるいは、「こそく」という語感が「こそこそしている」といった意味に捉えられていった、と考えることもできるでしょう。

 

ちなみに「姑息」と似た響きの言葉に「小癪(こしゃく)」があります。

生意気、腹立たしいといった様子を表す言葉で、「小癪なやつめ」などと使います。

 

ひきょうな人物は生意気で腹立たしいと感じる人が大半でしょうから、ネガティブなイメージの「小癪」と音がよく似た「姑息」が混同されていった可能性もあります。

 

このように、すっかり悪いイメージが広まっている「姑息」という言葉ですが、本来は「一時しのぎ」なだけであって、それほど悪気はない言葉だったのですね。