思いがけないことや常識から外れていることを「とんでもない」と表現することがあります。
「今回のプロジェクトの成功は、すべてきみのおかげだよ」と上司から言われて、「いえいえ、とんでもございません」と応じるような場合に使われることがあります。
この「とんでもございません」「とんでもないです」といった言い方は、日本語として本来誤りです。
「とんでもない」は形容詞です。
「白い」や「おもしろい」と同じ品詞ですね。
では、「おもしろくない」と言いたいとき、「おもしろございません」などと言うでしょうか。
「おもしろくありません」と言うことはあっても、「おもしろございません」は明らかに違和感があるはずです。
もし「とんでもない」を敬語にするなら「とんでもないことです」「とんでもないことでございます」が正しいとされています。
では、ビジネスシーンなどで使う場合、「とんでもございません」は避けたほうがいいのでしょうか。
これは微妙なケースといえます。
多くの人は「とんでもございません」と聞いたとしても、ほとんど違和感がないはずです。
「謙遜しているのだな」「これは常識外れだと感じているのだな」と意図が伝わりますので、「とんでもございません」と言ったことで信用を失うようなことは考えにくいでしょう。
「とんでもないことでございます」は言いにくく、聞き慣れない言い回しでもあるので、かえって不審に思われてしまうことさえあるかもしれません。
このように、言葉は多くの人にとって「慣れ親しんだ」「聞き慣れた」ものであるかどうかが重要なのであって、必ずしも理屈通りになっていないことがあるのです。
ちなみに、ビジネスマナーの解説本などでは「とんでもございません」を避けるために「とんでもないです」と言い換える方法が示されていることがあります。
しかし、「とんでもないです」のように形容詞に「です」が付く形も、本来は誤りです。
「この本はおもしろいです」という言い方は、現代では多くの人がごく普通に使っています。
では、丁寧語の「です」をやめて常体(〜だ・〜である)の文にしたらどうなるでしょうか?
「この本はおもしろい」となるはずです。
「この本はおもしろいだ」「この本はおもしろいである」とはなりません。
「形容詞+だ」「形容詞+である」に違和感があるのと同じ理由で、本来なら「形容詞+です」は間違いなのです。
「形容詞+です」はくだけた印象を与えますので、とくにビジネス文書などでは避けたほうが無難です。
「これはおもしろい本です」のように「形容詞+名詞」の語順に変えるといいでしょう。