このブログで掲げている「伝わる・喜ばれる文章」を実践する上で、たとえ話を活用することは有効な方法の1つです。
たとえを駆使することによって、類似した例をイメージしやすくなり、読者の理解を補助することになるからです。
しかし、たとえ話を挿入することでかえって逆効果になることもあります。
今回はたとえ話を駆使するときに注意すべきルールについて深掘りしていきましょう。
たとえは「比喩」とも呼ばれ、大きくわけて直喩と暗喩があります。
直喩とは「たとえば…」や「〜のような」といった言葉を用いて、「ここがたとえ話の部分ですよ」と明示する手法です。
暗喩とは、「わたがしの雲」のように「〜のような」などの言葉を用いずにたとえる手法です。
実用的な文章では、主に直喩が使われます。
暗喩を使ってはいけないわけではありませんが、高度なテクニックですのであまり使わないほうがいいでしょう。
たとえを用いるのは、次のような場合です。
「水が高いところから低いところへ流れるように、物事には順序があります」
「物事には順序がある」という主張をよりイメージしやすいように、「水が高いところから低いところへ流れる」という現象を引用しています。
これなら、読者は「なるほど、たしかに水はそのように流れるな。同じように物事にも順序があるのか」と理解しやすくなります。
一方、次のようなたとえはどうでしょうか。
「現在開発されている量子コンピュータの大半が厳密には量子理論を具現化したものではないように、世の中では正しいことが受け入れられるとは限らない」
量子コンピュータに関する情報をある程度持っている人なら、「なるほど、たしかに世の中でそういうことはあるな」と納得するでしょう。
ところが、大多数の読者にとっては「理解できない」「本当にそうなのか?」といった疑問が残ってしまうはずです。
最初の「水」の例と、あとの「量子コンピュータ」の例は、何がちがうのでしょうか。
最も大きなちがいは、身近なものを例に用いているかどうかです。
水が高いところから低いところへ流れることは、ごく普通に生活している人なら誰でも知っています。
水という身近なものについてイメージするのは簡単ですし、自然に受け入れることのできるたとえと言えます。
これに対して量子コンピュータは、多くの人にとって身近なものではありません。
「世の中では正しいことが受け入れられるとは限らない」というシンプルな主張をするために、これよりも難解で理解しにくいたとえを用いてしまっているのです。
たとえを使うのであれば、たとえる対象よりもさらに身近で分かりやすい例を挙げる必要があります。
原則として、身近なもの・多くの人が親しんできたものを例に用いること、すぐにイメージできるものから引用することが大切です。
たとえ話を挿入するときは、この点に注意しましょう。