『ASDの子どもの子育て』に関する書籍はたくさんあるが、『ASDの親が子育てをする方法』の本は相対的に少ないです。
なので情報は少ないのですが、私が集めた本やインターネットの情報と、離婚問題や発達障害の専門家達から聞いた話をまとめます。
特に父親がアスペルガー症候群の傾向があり、今後どのように子育てをしていけばいいのか悩んでいる方の参考になれば幸いです。
0歳から1歳(言葉が通じるようになるまで)
アスペルガー症候群と0~1歳の乳幼児との相性は調べたところ『まちまち』といった結果でした。
良い面もあれば、悪い面もあり、これはアスペルガー当事者の特徴の強さや、傾向によるところがありそうです。
◆アスペルガーの父親と0~1歳児の相性が良い面
・言葉の裏を読むような必要がなく、『泣いたときに抱いてあやせばよい』ので、共感性が低くても乳児とはコミュニケーションに苦労しない。
・単調作業が苦にならないタイプの場合、抱っこでゆらゆらする、オムツを替えるなど、やることが決まっていればひたすらやることが出来る。
→例:『旦那さんはアスペルガー』のアキラさんなど、子どもが寝るまで抱っこしていてくれて奥さんが助かったというエピソードなど。ただひたすら抱っこが必要、といった複雑でない状況であれば力を発揮するようです。
◆アスペルガーの父親と0~1歳児の相性の悪い面
・感覚過敏のあるアスペルガーの場合、赤ちゃんの泣き声が苦手でお世話がそもそも出来ない。
・なぜ泣いているのかを状況から読み取る力がないので、ただあやしたりオムツ替えをする、ミルクなどの決まった対処になってしまう。
いつもと違う理由、例えば、暑い・寒いで泣いていたり、痛い、嫌だ、怖い、といった赤ちゃんの気持ちを読み取って原因に対して対処することは出来ません。
→私の体験ですが、急に温かくなってきたある夜、眠っていた赤ちゃんが汗をかきすぎて泣き出したのですが、アスペルガーのパートナーは『夜中の泣き声=ミルク』と思って、そこにさらにホカホカのミルクを作って飲ませようとしていました…。その時私はコンビニに少し出ていたのですが、帰宅すると当然赤ちゃんは暑いのに熱いミルクでさらに泣き、本人はパニックになってさらに無理やり哺乳瓶を咥えさせようとする地獄絵図が広がっていました…。
・危険な行為と気づかず子どもにしてしまう。
たとえば子どもをベビーベッドに寝かせて柵をあげ忘れる、服を脱がせるときに首回りが引っかかっていても無理やり引き抜こうするなど。→こだわりが強くルーチンを変えられず、臨機応変に対応出来ないので、例えば首がすぼまっている服はちょっと広げてやる、といった配慮が出来ず、何でも「はいバンザーイ」で無理やり脱がせようとてしまったり。また、ADHD傾向もある人の場合は途中に気が散ってしまうと子どもの安全確保よりもそちらが優先になってしまうために子どもを危険に晒してしまうこともあるようです。
・『ちょっと子どもを見てて』などを指示を真に受け、本当に「子どもを見てるだけ」で何もしない。
→これはいろいろな書籍によく書いてありますね。指示する側が気を利かせなくてはいけないとどの書籍にも書いてあるのですが、正直、子育て中はそんな余裕あるわけないですよね…。
・産後の体調に配慮出来ない。
→体調が悪い、辛い、眠れてないという状況が理解できないので、『ご飯は?』といった発言で妻をイライラさせることも。座ってるだけで痛いレベルなのに旦那のお世話もしなくちゃ…となると正直厳しいですよね。
まとめると、子どもに社会性が目立ってくるまでは、ある程度マニュアル通りに相手をすればよいので、感覚過敏などで泣き声を忌避するアスペルガーでなければ、基本的なお世話は出来る人が多いようです。
特に受動型アスペルガーの人の場合、本人も『いい人』でいようとするバイアスがあるので、指示されればそれなりに手伝おうとします。
そういった面を『ありがたい』と思えるのであればメリットです。
しかし、細かなところで危険なことを子どもにしてしまう可能性もあるので、妻側が通常以上に監督役を厳しくしないと、赤ちゃんの状態を無視したお世話や危険行為が発生することがあります。
2歳~5歳(言葉が交わせるようになる頃)
発達障害の精神年齢は、暦年齢の2/3以下と言われています。
(発達障害戦略研究所のコラムより)
◆アスペルガーの父親と2~5歳児の相性が良い面
◆アスペルガーの父親と2~5歳児の相性が悪い面
・共感をもって接せない
→昨今は、小さな子どもに対しても「そっか、●●ちゃんはまだ遊びたいんだね」といった共感的な関わりが良いことは育児本などでよく書かれていますが、アスペルガー症候群の父親はマジでこれが出来ません!(力説)
例えば、自分は疲れているのに子どもは遊んでなかなか帰ろうとしない。このような状況だと、自分の『疲れた、帰りたい』という気持ちが優先して子供に対して怒ってしまったり、『帰るんだよ!』といって無理やり連れて帰ってしまったり。これらは子どもわがままへのしつけではなく、単に『自分がそうしたくなったから力ずくでなんとかしている』だけなのです。
・しつけを全くしないか、厳しすぎる
→しつけを全くしないは、とりあえず泣いたらおやつをあげたり、テレビや動画を見せたりするタイプの親です。アスペルガーの特性で「見通しが立てられない(想像できない)」「共感できない」点があります。見通しが立てられないことから、この場で子どものわがままを通しすと今後子どもがどうなるのか、想像ができないので、とりあえずこの場が収まれば良いと短絡的な行動に出ます。また、「共感できない」は上記の通り、なぜ子どもが従わないのか理解出来ないので、泣いていても放っておいてしまったりします。
一方、厳しすぎるは「こだわり」によるものだと思います。こだわりのあまり、子どものイレギュラーな動きが許せず、何でも先回りしてダメダメ!と禁止したり、何か気になることがあれば大声で厳しく制止したりといった行動に出ます。
・謝らない、他人のせいにするといった様子を子どもも真似をするようになる
→アスペルガー症候群の特徴で『謝れない』『他責にする』『その場しのぎの嘘をつく』というのがあります。
謝れないのは、そもそも相手が怒っているというのが読み取れていなかったり(アスペルガーの場合は、自分が別に怒っていなければ相手も怒っていないと思ってしまう)なぜ相手が怒っているか理由が理解できないので、そもそも謝らないでトンチンカンな言い訳をしてしまったり、逆に本音ではないその場しのぎの謝罪でそのばをやり過ごそうとします。
子どもは人のせいにする大人の真似をするのが得意です。
・アスペルガー症候群の特徴的な言葉遣いを真似てしまう
→アスペルガー症候群のうち、特に『尊大型』など仰々しい型式ばった言葉遣いなどをするタイプの親だと、子どもが真似をしてその独特の言葉遣いや表現を真似してしまうことがあります。
まとめると、遊び相手としては良い面もありますが、一方で親として見たときにしつけやコミュニケーションの場面で齟齬が出てきます。
しかし、まだこの年代の場合は、父親が変わっているとは考えないので、多くの場合は楽しく遊んでくれて『父親が好き』という子どもが多いです。
むしろ、子どものしつけを重要視する母親と、子どもを好き勝手にしてしまうアスペルガーの父親との間での軋轢の方が目立ってくる時期かもしれません。
学童期以降
学童期以降については、親がアスペルガー的特性があったという方たちのブログ、自伝などが大量に公開されているので、参考になるものは多いです。
しかし、当たり前ですが、当時の体験が辛かったからブログや手記にするのであって、アスペルガーの父親との関わりが幸せだったのならあまり記録に残そうとする方は少ないでしょう。
従って、自然と目に付くのは『親がアスペルガーで辛かった』という話になります。
では、表に出て来なかった『親がアスペルガーだけど幸せ』という層はどれくらいいるのかというと、これはわかりません。
そもそも幸せなら親の発達障害を疑うこともないでしょうから、数えることすら出来ないと思います。
しかし、このブログを読んでいるような方は、アスペルガーの父親との関係に悩むような出来事があったはずです。
それと同じ気持ちを、大きくなって物事がわかるようになった子供が抱かない理由はありません。いつかは『お父さんって何か変だな』って気付く可能性は必ずあります。
そこまで気づいた後で、反面教師として子供自身が立派になるケースはあるようです。
発達障害の例ではありませんが、虐待を受けた子どもが、自分の子どもに虐待をする可能性は30%だそうです。逆に70%は親を反面教師として虐待をせず育てられます。(『「生存者」と呼ばれる子どもたち 虐待の淵を生き抜いて…宮田雄吾』より)
ただ、一方で子供もカサンドラ症候群になってしまって、長期間苦しむこともあります。
アスペルガーの親について書かれた書籍も多いですが、ここでは読みやすいブログをいくつか紹介します。
余談ですが、私の父親もアスペルガーの傾向がありましたが、とにかく学問と仕事に優秀でした。そんな父だったので、幼いころは理不尽に怒られたり、常に優等生を続けられなかった場合に、殴られたり叱られたりしても『あんなに立派なお父さんが怒るのだから、私がきっと何か悪いところがあるんだ』と自分を責めていました。
その呪縛が溶けたのが大学生のころです。高校生の頃には、父親から責められ続けて自己肯定感が下がり続け、うつ病になっていました。いわゆるアダルトチルドレンの優等生型のなれの果てです。
なんとか大学生になり父親と離れ、うつ病が少しずつ良くなり、社会との繋がりが増えたときにようやく、父親は『一般的な基準からしておかしい』と気づきました。
同時に、自分自身も父親を基準にしていた部分があるせいで、対人恐怖など、おかしくなっている部分があることにも気づき、少しずつ周囲とのコミュニケーションの仕方を修正していきました。
この経験で、悪かったことはたくさんあります。夢の中に怒り狂う父親が出て来るので夜驚症になりました。うつ病で何年かほぼ寝たきりの生活で大学生の若い日々を浪費しました。
アスペルガーの傾向のある男性と気づかず付き合って妊娠しまったのも、アダルトチルドレンを克服しきれず引きずっていたために、父親に似た男性に惹かれたのかもしれません。
一方で良かったことはあるかというと、そんなにありません。
反面教師にして、子どもには私がされて嫌だったことはしないようにしよう、と心底思えること。辛かった体験があるので、仕事などで困難にあっても多少のストレス耐性はついたこと、くらいでしょうか。
それですら今は克服したから言えるのであって、克服できずに苦しみ続けている人はたぶんメリットなんてないでしょう。
アスペルガーの父親はどうしたらいいか
母親の立場から、父親にお願いしたいことを書きたいと思います。
・家族が嫌がることはすぐやめてください
→自分のこだわりで、やってしまうのはわかりますざ、家族は迷惑しているので指摘されたらノートにでも書き残して、折りに触れて見返してやらないように気をつけて欲しいですね。
・家族に怒られたら言い訳しないで謝ってください
→妻がカサンドラになるのは、これが出来ない男性が多いからです。都合の悪いことを指摘されたときに言い返されてばかりだと、指摘する気も失せると同時に愛情もなくなっていきます。
・しつけや教育方針の判断が十分に出来ないのなら、妻に従ってください
→アスペルガーの父親はしつけをしないか、しすぎてしまうと書きました。その傾向があるなら、お父さんは自分で判断しないで妻に任せた方が良いでしょう。でも、「お母さんが怒るから止めようね!」というしつけは子どもにはしてはいけません。母の機嫌でやっていいことや悪いことが決まるわけではないからです。「危ないから止めようね」と、なぜダメなのかの理由をよく把握してそれを伝えてしつけしてください。
・週末は子どもと遊びに行ってください
→アスペルガーの男性の良いところは子どもと近い目線で遊べることです。山や海、公園でもいいので、子どもを連れてたくさん遊んであげてください。また、出来るだけ遊びに行っている間はお母さんを自由時間にしてあげてください。
・自分の特性を理解して弱点を克服する努力をしてください
→妻は、夫の特性をふまえて声かけを工夫したりとか、わかりやすいように具体的に話したりといった気遣いができます。
でも、子供はそんな気遣いは出来ません。ただただ、お父さんのことが理解できなくて、混乱して、『自分が悪いんだ』と責め続けることになります。
共感のない言葉を言ってしまったと思ったら謝る、今後同じ言い方をしないように気をつけるなどの努力をしてください。
自分はアスペルガーだから、といって開き直ってる場合じゃありません。
まとめ…父親がアスペルガーの子育ては良し悪しな部分がある。
0歳~5歳頃、お子さんの発達具合によっては小学校低学年くらいまでは、一緒に無邪気に遊んでくれる遊び相手として良い関係を築ける可能性はありそうです。
しかしその後、物事がわかるようになってからは、父親の存在が嫌だったと感じる子どもたちの手記は多いものの、幸せだった子どもたちの記録は残らないので、わからないのが実状です。
ただ、アスペルガーの離婚率80%から示すように、家族関係で問題を来す確率が非常に高いので、幸せだった家庭は少ないのではないか…という推測も成り立ちそうな気がします。
また、特に子どもが女の子の場合は、女の子のコミュニティは共感力を求められるので、父親がおかしいことには気づきやすいでしょう。
ただ、子どもはまっすぐで、状況を受け止める力はものすごくあります。
父親が付き合いにくくても、多少であれば『困ったお父さん』くらいで受け止められます。
問題はその『困ったお父さん』の範囲で済めばいいのですが、子どもの受け止めの許容量を越えてしまうと、子どもに愛着障害やアダルトチルドレンなどが発生します。
そうならないためには、やはりお父さん自身の努力と、お母さんをはじめとする家族の歩み寄りが必要のようです。


