「PRISON CIRCLE」を観て
この映画に登場する「島根あさひ社会復帰促進センター」は官民協働の新しい刑務所。「TC(Therapeutic Community =回復共同体)というプログラムを日本で唯一導入している。
「TCユニット」と名付けられた島根あさひの教育プログラムは、「サークル」と呼ばれる円座での対話によって受刑者たちが犯罪の原因を探り、問題の対処法を身につけることを目指す。
拓也(22歳)は詐欺と詐欺未遂の罪で刑期は2年4ヶ月。目標もなく、自堕落だった自分の考え方を変えられるかもしれないとTCへの参加を希望。施設に預けられて育った彼は、幼少期の記憶があまりない。TCで受ける講義や語り合いを通じて、負の感情に耐えられないためにそれを別の感情に置き換えてしまっていたことや、密かに抱えていた欲求を少しずつ自覚できるようになった…。
彼らに共通するのはそもそも生まれてから「心休まる安全な場所」を持ったことが一度もないこと、幼少期、学童期に親からの虐待や友達からの激しいいじめなどを経験していること。あまりに辛い体験をすると、人間はその体験を忘れてしまったり、痛みや寒さは感じても感情が動かなくなってしまうらしい。彼らは「人として当たり前に尊重された」経験がほぼないのだ。
ここでこの映画を観た著名人らのコメントを紹介したい。
「人の苦しみが全て他者との関わりから生まれるのなら、それを癒すのもまた他者との関わりでしかあり得ない。
他者と関わる手段は「会話」であること、暴力へのカウンターは「言葉」であることに改めて思いを巡らせました。
全刑務所でTCが導入されればと思います。
ブレイディみかこ
ライター
ここにいる皆が、自分とは何者なのか、に悩んでいる。そもそも、取り戻すべき自分が見当たらない。
対話を重ねると、少しだけ光が射す。
その光を阻害しているのは誰なのかと、レンズが私たちにも向けられる。
武田砂鉄 ライター
私たちから彼らを遠ざけても、犯罪は彼らから遠ざからない。
彼らが抱えてきた孤独や怒りは、置き去りになったままだからだ。
「犯罪者を擁護するのか」と、回復の議論さえ許されない風潮はなお根強い。むしろそう思う人ほど、この映画を観てほしい。
安田菜津紀
フォトジャーナリスト
スクリーンの中にいたのは自分とかけ離れた人たちではなかった。そこにはたくさんの苦労を抱えながら生き延びてきた仲間たちがいた。一緒に当事者研究できる日を心待ちにしています。
綾屋さつき
自閉症スペクトラム者
東京大学先端科学技術研究センター当事者研究分野
…日本では4万人ほどの受刑者に対して年間40人ほどくらいしかTCを受けられない。信田さよ子さん(原宿カウンセリングセンター所長)によれば、カナダの刑務所では再犯防止のために様々なプログラムが実施され、その効果が毎年検証されては内容が更新され続けており、社会復帰のシステムが段階的に完備されているという。刑務所に閉じ込める経費に比べれば再犯防止のために払うエネルギーなど比較にならないという冷徹な計算にも裏打ちされているが、安田さんが心を打たれたのは、カナダという国が再犯防止のために払う必死の努力に対してだという。
多くの人がこのプログラムに関心を寄せ、国がこの経費に予算を組んで欲しい。
「加害の手前にあった、かつては被害者であった自らの痛みについて彼らが知ること、そこからしか本当の償いは始まらない。」