その日の夜、夫が帰宅した。

玄関のドアが開く音がして、
「ただいま」と、いつも通りの声が聞こえる。

その声を聞いた瞬間、胸がどきっとした。そろそろ夫が帰宅する時間だと言う事はわかっていたのに。

昼間からずっと考えていた。
どうやって伝えればいいのかを。

でも、答えは出ないままだった。

「おかえり」

いつも通りそう返しながらも、心の中は落ち着かなかった。

夫は靴を脱ぎながら、待ちきれないようすで聞いてきた。

「今日の病院、どうだったの?」

私は少しだけ間を置いた。

そして、リビングの椅子に座りながら言った。

「ちょっと先生から話があってね」

夫は私の向かいに座った。

「うん」

その一言に背中を押されるように、私はゆっくりと口を開いた。

「検査の結果ね……」

一度、言葉が止まる。

胸の奥がぎゅっと締めつけられて苦しい。
世界で1番大切な存在なのに、こんなに残酷な事実を突きつけないといけないなんて。

もう何も言わずに、何も知らないままで、今まで通り夫婦2人仲良く生活をしていけば良いのではないか?

そんな思いも間違いなくあった。
それでも、やっぱり伝えなければいけない。
私たちは何があっても添い遂げると決めた夫婦なのだから。

「あのね、あなた……無精子症かもしれないって言われた」