今日から司馬遷(しばせん)が編纂した史記に記されている、范雎(はんしょ)という人物について、書きたいと思います。

 

 范雎のことを知っている人は、かなり東洋の歴史に造詣が深い方に違いありません。

 

 一般の人は多分、この人の名前の漢字さえ読めないと思います。

 

 范雎という人は、古代中国の秦(しん)の始皇帝の曾祖父に当たる昭襄王(しょうじょうおう)に仕え、秦の国の宰相まで上りつめた人です。

 

 「キングダム」の漫画やアニメをご覧になった方なら、呂氏四柱(りょししちゅう)の一人として登場する、蔡沢(さいたく)という老人を覚えていらっしゃるかも知れませんが、今回の話の主役である范雎は、その蔡沢に引導を渡された人なんです。

 

 あの漫画では、蔡沢はまるで、呂不韋の側近のような設定になってしまっていますが、実際には、蔡沢と呂不韋の接点はなかったのではないかと思います。

 

 それでは、12年前のパリブログから、范雎について語った記事をリメイクしますね。

 

 この范雎というのは、万里の長城を作った始皇帝で有名な万乗の国・秦(しん)の立役者と言ってもいい人物です。

 

 この人、若い頃これでもかという位に、ひどい目に遭わされたんです。

 

 范雎は元々、秦の隣にあった小国の魏(ぎ)で生まれました。

 

 若い頃は貧乏で暮らしが立ち行かず、魏で中大夫(ちゅうたいふ)をやっていた須賈(すか)という人に仕えていました。

 

 范雎という人は、とにかく弁舌をふるわせたら、右に出るものがいないという人です。

 

 ある時、須賈のお供をして、斉(せい)の国へ使者としておもむいた時、斉の国の王様が范雎の弁舌をとても気に入って、黄金や牛肉や酒が范雎の元に送られてきたことがあったんです。

 

 でも、范雎は真面目な人だったので、それを受け取りませんでした。

 

 ところが、その話を聞いた主人の須賈は、斉の王様が范雎のことを気に入ったのは、きっと范雎が国の秘密を王様に漏らしたからに違いないと、決めつけたんです。

 

 そこで須賈は、自分の上司にあたる魏の国の公子である魏斉(ぎせい)に相談しました。

 

 すると魏斉は激怒して、范雎を近侍に命じて棒で何度も何度も打たせ、范雎はあばら骨も歯も折れて、ついに倒れてしまいました。

 

 范雎が倒れこんだまま死んだふりをしていると、今度は体をスノコで巻かれて、便所に置かれたのです。

 

 そうすると、みんなが代わる代わる范雎に小便を掛けていくんですね。

 

 つまり「国の秘密をばらすとこうなる」という、見せしめにしたのです。

 

 范雎はスノコの中から、番人にこっそりと「私をここから出してくれたら、たっぷりそなたにお礼をする」と声を掛けると、番人はスノコごと范雎を外へ運び出しました。

 

 范雎が逃げ出したことを知った魏斉は、国中を探させました。

 

 事態を知った范雎の友人である鄭安平(ていあんへい)が駆けつけて、苦心の末、何とか范雎を安全な場所へと逃がしてやりました。

 

 その頃、秦の謁者(えっしゃ=謁見人)である王稽(おうけい)が、ちょうど魏の国に来ていて、秦の国に連れて行く才智ある論客を探していました。

 

 そのことを知った鄭安平は、王稽と范雎をひき合わせることにしました。

 

 范雎と面会して、その類いまれなる広大な思想と弁舌の才を知った王稽は、范雎を輿(くるま)に乗せて、秦の国へと連れ出したのでした。

 

 12年前に書いたブログでは、この後に長々と、秦の国で宰相にまで出世した范雎が、須賈と魏斉に復讐を果たすストーリーを書いたのですが……

 

 それについては、これからゆっくりと語っていきますね。

 

 (2012/11/03「恨みを忘れて、初めてわかることがある」をリメイク)