司馬季主(しばきしゅ)は、次のように語りました。

 

 「天は西北の一隅で落ち込んだから、星辰(せいしん)はその方向へと動いていくのです。大地というのは東南に傾いているから、あらゆる水は東と南にある海へと集まっていくのです。

 太陽は空の真ん中に達すれば、必ず下っていき、月の輪は円く満ちれば、そのあとは欠けていきます。いにしえの帝王の政道も、続いたものもあれば、消えてしまったものもあります。

 あなた方は『占い師の予言というのは、必ず当たらなければならない』というばかりに責められますが、そのこと自体、筋違いなことではないでしょうか?」

 

 ここで少し解説すると、星辰とは星や星座のことです。

 

 「天が西北の隅が落ち込んでいるから、星や星座はその方向へ動く」いう言葉は、我々からしたら全く意味不明ですが、中国大陸に暮らしている人々が持っている一つの世界観のようなものです。

 

 地理的に言えば、中国大陸の西北側には高い山脈や高原が連なっています。

 そういったことから、やがて「西北」は天を司るポジションと考えられ、星や星座さえも、西北に少しずつ移動していくと考えられたのでしょう。

 

 また「大地が東南に傾いている」というのも、中国大陸の東南側が海に面していることからできた、一つの世界観です。

 実際に、この司馬季主たちがいる長安あたりの地形だけを調べれば、これとは全く逆で、東南にある土地の標高が一番高くて、西北にある土地の標高が一番低いのですが、そういう問題ではないんですね。

 

 司馬季主はこれらのこと(「星々が西北に移動する」と「あらゆる水は東南の海に集まる」)を、「太陽が南中したら、その後は沈んでいく」ということや「月が満月になれば、あとは欠けていく」ということと同じように、この世の真理の一つの例えとして、説明に使ったに過ぎません。

 

 「森羅万象どんなものであっても、一定の法則のもとに変化していくのであり、絶対的で永久的なものなど存在しないのだ……」 ということを、司馬季主は述べたかったのでしょう。

 

 最後に司馬季主は、宋忠(そうちゅう)と賈誼(かぎ)に、いにしえの皇帝や君主たちに献策をした占い師たちの話をして、締めくくりました。