今回は浅草オペラ系の男性歌手が歌った『カルメン』のレコードについて解説していきたいと思います。

 

{16BAD135-C994-420A-B627-31DB7B1710B4}

『カルメン』の物語は大正時代に広く、日本人に愛された作品です。

新劇の舞台では松井須磨子が演じたことでも有名で、この『カルメン』の公演中に牛込にあった劇団の事務所で縊死をしたことも、どこか因縁めいており、当時の話題となりました。

その他にも高木徳子が「カルメン物語」として改編した作品を上演したほか、翻訳された書籍もたくさん出版されています。

 

日本でオペラ『カルメン』のほぼ完全版が上演されたのは1922年(大正11)年、根岸歌劇団によるものでした。

この際の配役は「カルメン=清水静子」「ホセ=田谷力三」「エスカミリオ=清水金太郎」「ミカエラ=安藤文子」など、劇場は連日オール満員で、浅草オペラ史上屈指の大成功をおさめることに成功しました。

そして関東大震災を経て、1924年(大正13)オペラ館で旗揚げしていた森歌劇団でも『カルメン』を上演。カルメン、ホセの配役は変わらず、再び多くの観客を熱狂させました。

なお、この公演では日本ではじめてティンパニーが使用されたといわれています。

 

このように『カルメン』は大正演劇史の中でも、特筆べき項目のひとつなのですが、浅草オペラ系歌手による「カルメン」のレコードは、思いの外数がすくなくなっています。

 

日本人による『カルメン』のレコードの最古の部類に入るのが、1918年(大正7)発売『カルメンの内 ドンホーゼ花の歌』原田潤 ピアノ金光子(東京レコード1522です。


{29376635-CCB4-4FA1-8371-3716E7057AAC}

原田潤は東京音楽学校出身のバリトンで、その後、帝国劇場歌劇部の舞台に客演。その後、宝塚少女歌劇団の教師として招かれた人物です。

正確にいえば浅草の舞台には立っていませんが、清水金太郎や原信子らと音楽活動をしていたことから、今回はここで御紹介をいたしました。

原田潤は後にニットーレコードで録音を残していますが、非常に滑らかな歌声で、当時の歌唱レベルからすると、田谷力三や大津賀八郎らより数段安定感があります。

 

そして、絶対的に浅草オペラの歌手で『カルメン』のレコードを残しているのが藤村梧朗です。『カルメン(一)/(二)/(三)/(四)』里見義郎 藤村梧朗 丸山夢路(ニッポンレコードP107/P108)で、1930年頃の発売です(正確な発売年は後日追記します)。


{DF48D504-11C8-4558-9BFD-E436BF253F67}

藤村梧朗は根岸歌劇団の初演時には密輸団の男として出演しましたが、このレコードでは男性役をすべて一人でこなすという器用振り(笑)

ちなみに里見義郎とは、関西圏で活躍した活動弁士で、藤村と丸山の劇の合間に解説として加わっています。

24面に渡って演じられていますが、アリアが挿入されているのは第4面、『闘牛士の歌』のみとなっています。

しかし、藤村梧朗がオペラ歌手として本領を発揮した唯一のレコードなので、大変貴重な録音です。

 

この他、丹いね子、清水静子が「カルメン」のアリアを録音していますが、女性歌手の『カルメン』に関しては、また改めて記載していきたいと思います。