ブログラジオ ♯57 Always There | 浅倉卓弥オフィシャルブログ「それさえもおそらくは平穏な日々」Powered by Ameba

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インコグニートというユニットである。

Inside Life/Incognito

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トーキング・ラウドというレーベルがあって
たぶんその筆頭格がこのグループだった。


中心人物の名前は、ちょっと長くて
JPことジャン=ポール・
《ブルーイ》・イーモックという。
彼も基本はギタリストなのだと思う。


バンドのデビュー、あるいは結成は
実は81年のことらしいのだが、

我が愛すべき80年代を通じて、
匿名者を意味するその名前が
僕の耳にまで届いてくることは
ほとんどなかったといっていい。


ところが91年、10年ぶりに発売された
INSIDE LIFEと題された
このセカンド・アルバムから、


今回のAlways Thereという曲が
全英のシングル・チャートを
六位にまで駆け上がるのである。


こういうのを見ると、
やっぱり目に見えない時代の趨勢というか、
潮流みたいなものは
確かにあるよなあ、と思う。


だからたぶん、ワーキング・ウィークは、
ちょっとだけ早過ぎたんだろうなあ。


まあそういった背景があったもので、
前回のTBNHやワーキング・ウィークなどと
同じ種類のノリを期待して、
僕もこのアルバムを入手したのである。

もっとも、さほどはまった訳でもないので、
彼らの手持ちの音源は、この一枚のみである。


狙っているところは、
既出のこのジャンルのバンド群と
やっぱりどこかが共通していて


翳りのある、ある種湿った
ファンキーさとでもいおうか、
その辺の空気は十分に魅力的である。

時にこういうものに浸りたい場面には
重宝する一枚であることは間違いがない。


タイトル・トラックや、
クロージング手前の
Promise You The Moon辺りは
耳に残るものを持っている。


インスト・ナンバーのGypsyなんかも、
スパイロジャイラやシャカタク辺りの、

気怠い爽やかさみたいな手触りを
ほどよく思い起こさせてくれて、好きである。


同曲は、アルバムのいいアクセントにも
なっているのではないかと思う。



さて、そして今回のAlways Thereなのだが、
前述のように、このバンドに
ブレイクスルーをもたらしたトラックである。

アメリカにロニー・ロウズなる
サックス・プレイヤーがいて、


彼がブルー・ノートというジャズレーベルで
録音した楽曲をカヴァーしたものだそう。


だから、元々はこの曲、
インスト・ナンバーだったのである。

まあこういうのは大概
上手く行かない場合が多いのだが。


そういえば去年かその前、あったよね。
え? これに歌詞載せるの? ってやつ。
どれとはあえて書かないけれど。


もちろんこのAlways Thereは、
僕がオリジナルを未聴であるということも
たぶんあるのだろうけれど、
その種の違和感を感じさせることはまるでない。

だから前述のチャート・アクションも
十分に頷ける佳曲なのである。



で、驚いたのはこのインコグニート、
今回の紹介は二枚目の作品なのだが、


以後もちょっと尋常ではないメンバーの
出入りを繰り返しながらではあるけれど、

外枠だけはどうやらずっと存続を続け、
今に至るまでに、スタジオアルバムだけで、
実に15枚もの作品を発表しているのである。


最新作は昨14年の発表で、
これもまた、ビルボードのジャズ・チャートで、
1位にまで上り詰めているらしい。


いや、凄いことだなあ、と思う。

これはまったく個人的な印象になるけれど、
やっぱりジャズ系のミュージシャンって、
たぶんものすごく、基礎の部分を
しっかりと鍛えているんだと思う。


だから続けられるし、
作品を発表できるんじゃないだろうか。


もちろんそれを発表させる
レーベルがあるということにも、

またバンドへの敬意と同じくらい、
この御時勢、よく頑張ってるなあ、と
つくづく思わされたりもするのだが。



では例によって役に立たないトリビア。


最初に触れたトーキング・ラウドという
インディーズ・レーベルについて。


イギリスのクラブDJに
ジャイルズ・ピーターソンという
非常に有名な方がいて、

この方がまずアシッド・ジャズの名を冠した
その名前そのもののレーベルの
立ち上げに関わり、


さらにその後、独立して設立したのが、
このトーキング・ラウドだったのである。


なんだか、今になってみると
シーンを一人で回していたような印象さえある。

ただ、この時期にこういった人たちが
ダブを始めとするミキシングの操作を
ライヴ・パフォーマンスとして
成立させたことにより、


ヒップホップのみならず、
リズム隊をパーマネントなメンバーとして
持たないスタイルのバンドというのが
登場できるようになったことは
たぶん間違いのないところなのだろう。


そうなると、
ファンモンもあるいはセカオワも、
この時代のムーヴメントの
遠い影響下にあるのかもしれないな、などと
ふと思ったりしてしまう次第である。