ブログラジオ ♯51 I Don’t Want to Be a Hero | 浅倉卓弥オフィシャルブログ「それさえもおそらくは平穏な日々」Powered by Ameba

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ヒーローになんて成りたくない。
青いのかそれともカッコいいのか、
なんだかすぐにはよくわからない。

Turn Back the Clock/Johnny Hates Jazz

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ジョニー・ヘイツ・ジャズという。

この一枚きりで姿を消してしまった
三人編成のグループである。


もちろんこのバンド名、
一見してわかる通り、
一つのセンテンスとなっている。

――ジョニーはジャズが大っ嫌い。

ところでこのHateという単語、
おそらくよほどのことでない限り
日常では滅多に使われることがない。


むしろ家族以外の相手に向けて
一度でも口にしてしまったら、

そこで関係は終わるだろうくらいの
覚悟をしなければならないほどの
強い意味を持った言葉であるはずである。


でもだから、そういう逆説的なところを、
あえて狙ったのかなあ、なんてことを
当時は穿って眺めていたものである。


この業界、やっぱり時々やるのである。
ジャネット・ジャクソンのNastyとかもそう。
やっぱりそういうのは人目を引くのである。

だけど、実際はどうだったんだろう、

口では嫌いといいながら
実はすっかりジャズっぽいというほどでは
決してないのだが、全体に
どことなくそんなエッセンスを感じはする。


ちなみにメンバーの中には
ジョニーという名前はみつからない。

実はこれ、ベーシストの友人なのだという話が、
手元のライナー・ノーツには記載されている。


彼の奥さんがジャズが好きで
ずっと家ではジャズが鳴っているのだが、
本人は実はあまり好きではなかった、
みたいな挿話が、元になっているらしい。



さて、バンド名とは裏腹に、と
いってしまっていいのかやや迷うが、
とにかく彼らの音楽は、どこまでいっても
ロックであり、あるいはポップスである。

ドラマーがブラシでスネアを
こすったりもしなければ、
ウッドベースがシックなフォー・ビートを
刻んでくる訳でもない。


なのに手触りが、なんとなく
そちら側に寄っている気がするのは
いったいどうしてなのだろう。


それがこの変わったバンド名による
ある種の刷り込みなのだとしたら、
それはそれで成功だといえるのかもしれない。


さて、88年のこの彼らのアルバムも、
前回のウエットウエットウエットや、
あるいはその前に取り上げた
キュリオシティー~の作品と同じほど、


すぐにはデビュー作とは
信じられないくらいの佳曲揃いだった。


タイトル・トラックの
Turn Back the Clockなんてのも
かなり好きだった記憶がある。
穏やかな感じのバラードである。

時計を戻すことができるなら。

まあ、端的にそういった感じである。
適度なノスタルジーをかき立ててきて、
映画のラスト・シーン辺りに
いかにも流れてきそうな感触である。


オープニング・トラックであり、
最初のシングルだった
Shattered Dreamsなる曲も
なかなかにかっこいい出来だった。

ラス前のDon’t Let End in This Wayも
結構独創的なビートだったと思う。


レゲエみたいなリズムなのだが、
そこに短調の旋律が載ってきて、
ある意味ひどく斬新だった。


でもやっぱり圧巻は、今回御紹介の
I Don’t Want to Be a Heroなのである。

何よりもまず、このイントロである。

マイナースケールの鍵盤の印象的なラインを、
抑えたリズム・ギターと、
リズミカルなベースとが支える。


クールとしかいいようがない。

ブラスのアクセントも効いている。

メロディーは結構上下動が激しくて、
サビの箇所のコーラスの、
ちょっとため息っぽい感じも決まっていた。


相当気に入っていて、当時は12インチも
繰り返し聴いていた記憶がある。

残念ながらこの一枚の成功のあと、
リード・シンガーで、同時に
メイン・ソングライターでもあった


クラーク・ダッチェラーの脱退によって、
バンドはたちまちのうちに終息してしまう。


ダッチェラーはその後、
RAINDANCEというソロ作品を
発表しているのだけれど、

ほかのメンバーの消息についてまでは
さすがに詳しいことがわからなかった。



TURN BACK THE CLOCKの衝撃が
あまりにも大きかったので、
このRAINDANCEもやっぱり聴いた。


Crown of Thornsという
トラックが好きだった。
茨の冠という意味である。

あえて説明するまでもない気もするが、
十字架を背負わされ磔刑の刑場へと向かうべく


ヴィア・ドロローサを進んでいった
イエス・キリストが、ローマ帝国によって
頭上にかぶせられていたのがこれである。


これがまあ、今回のトリビアということで
御了承いただけるとありがたい。