ブログラジオ ♯11 Black Money | 浅倉卓弥オフィシャルブログ「それさえもおそらくは平穏な日々」Powered by Ameba

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カルチャークラブを侮ってはいけない。
ボーイ・ジョージを舐めてはいけない。

彼らの2ndアルバムColour by Numbersは
同時期のシンディ・ローパーのShe’s So Unusualと並んで
まさに化け物みたいな作品だった。
捨て曲が一曲たりとも見つからないのである。
どのトラックも十分にシングル・カットに
耐えうるだけの力があった。
その点ではシンディのものより彼らの作品の方が
本当に僅差だが、やや勝っていたとさえいえるかもしれない。

実際どちらのアルバムも、収録曲の半分近くかそれ以上を
シングルとしてチャートに送り込んでいるはずである。
興味のある方は調べてください。びっくりします。
そんなアルバムは他にはたぶん、
スプリングスティーンのあのBorn in the USAが
唯一挙げられるのみである。

女装の麗人とでもいおうか。
とにかくあの体躯であの格好である。インパクトは強烈だった。
しかもそのスタイルで、カーマカマカマカマとか歌うのである。
とりわけ僕ら日本人にしてみれば、
ギャグにしかみえなくて当然だった。

だが彼らのソングライティングは実際頭一つ抜けている。
キャッチーでポップで同時に美しい。
それはいわば第一期の最後の作品となってしまった
From Luxury to Heartacheを通して聴くとよくわかる。
そこに例のボーイ・ジョージの歌唱力と声量が加わるのである。
あれだけのメガヒットを飛ばせるだけの資質が確かにあった。
BAND AIDのDo They Know it Christmas?を聴けば、
彼の声のユニークさと声量のすごさとが
はっきりと確かめられるはずである。

Colour by Numbersの圧倒的な成功の後、
しかしながらバンドには内紛が起きてしまう。
正確にはバンド内のものではない。
サポートメンバーとして、レコーディングにもツアーにも
参加していた女性シンガーがグループへの正式加入を求め
これが却下されてしまったのである。
結局彼女は喧嘩別れみたいになって去ってしまう。

黒人の、太ったおばさんだった。名前はさすがに覚えていない。
まあ、調べればわかるのかもしれないが。

Colour by Numbersの全体を通して聴けば、
彼女の存在がどれほどサウンドに貢献していたかは明白である。
たぶんゴスペルシンガーだったのではないかと思う。
声量も歌唱も、ボーイ・ジョージと十分に張り合えるだけの
稀有な資質を持ったアーティストだったといえるだろう。
実際Poison Mindなんかでは、
サビの歌唱はすっかり彼女に任されてもいる。

だからもし、あの時このカルチャークラブが
ちょっと違うがホール&オーツとか、
あるいはフリートウッド・マックやスターシップみたいに
バンド内に複数のヴォーカリストを
擁するというスタイルを選択していたならば
さていったいどうなっていたことだろうと、
今でも時に思わないでもない。

まあ逆にいえば、だからこそColour by Numbersは
それこそ奇跡みたいな消えることのない輝きを
放つことができたのかもしれないのだけれど。

Black Moneyはその奇跡のアルバムの収録曲。
この曲ともう一つ、当時のA面ラストを飾っていた
That's the Way (I'm Only Trying to Help You)とは、
ある意味同作の白眉といってよいのかもしれない。
どちらも二人のヴォーカリストの掛け合いが
まったくもって見事なのである。
いや、KarmaにもMiss Me Blindにも
もちろんそういう要素はあるのだけれど、
こういうスロウなナンバーだと、その魅力が
本当に際立って迫ってくるのである。

その後彼らは、98年に再結成し、
Don’t Mind If I Doというアルバムを発表している。
ソングライティングの巧みさはもちろん
ボーイ・ジョージの歌声も健在だった。
また近頃再々結成のニュースも届いていたようなので、
それはそれで楽しみである。


さて、最後にまた一つ余談。
僕は三作目として発表した長編である
『雪の夜話』という作品のラストに、
ボウイのSTARMANのカヴァーを
ちらりと登場させているのだけれど、
実はこれ、頭の中にあったのは彼らのヴァージョンである。
上で紹介した再結成時のアルバムに収録されている。
本当に非常にいい出来で、え、なんでEMIこれ
シングルカットして押さないんだろう、絶対ヒットするのに、
なんてことを訝しく思ったものである。


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