伊吹山 岩手峠~南東尾根 バリバリ・バリルート 前編 | 強化人間331のブログ

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サイボーグである強化人間331の、つれづれ山行記録。
さしておもしろくもないのは、ご愛嬌。

伊吹山を南東尾根から!

著者は2019年の終盤に、伊吹山をほぼ海抜ゼロメートル地点からやっつけてやろうという無謀な試みを敢行したことがあります。石田三成陣地跡からえんえんと北西へ登るというロングコースでありました。

ところがあまりの長さや道の複雑さに辟易し、ドライブウェイに出たあたりで撤退してしまった。黒星がついたわけです。その山行を本ブログにアップしようとしていたのですが、黒星のついた記録を載せるのもなあ……と逡巡しているあいだに月日は流れ、2023年になってしまったのです!

つまり伊吹山南東尾根とは、本アカウントが4年も失踪する元凶となった宿敵なのですね。これを放置しておいてはベテラン山屋たる強化人間331の沽券に関わる。そういうわけで4年越しのリベンジをやってきました。果たして踏破なるか!?

※本ブログの〈引き〉について
著者はテレビでよく見かける「**から目が離せないー?」といった露骨な引きが大嫌いであります。目は離せます。ここで結末をネタバラししておけば、「果たして踏破なるか」と書いているけれども、その前に「黒星のついた記事は掲載しない」と書いていますよね。つまり踏破できたということです。これにて読者をくだらん引きから解放しようというのが本アカウントの趣旨であります。

1 伊吹山南東尾根とは
伊吹山は一般的に、滋賀県上野から登るのが正道です。たださすがにこんなルートをダラダラ登っているのはベテラン山屋のするこっちゃない。というわけで春日村から登ることとしました。むろん笹又はメジャーなので避け、かつ4年前の雪辱を晴らさねばならない。ルートは以下の通り。

春日村初若周辺~602メートルピーク~750メートルピーク~県道合流~岩手峠~781メートルピーク~905メートルピーク~ドライブウェイ合流~南東尾根とりつき~伊吹山~9合め駐車場~ドライブウェイ経由~ドロップ地点~868メートルピーク~下山口~車道歩き~春日村初若周辺(車回収)

 

日時 2023年3月19日(日曜日) 

天候 快晴 3月らしい陽気

メンバー 強化人間331(単独)

装備 テント泊一式、ほか

距離 約20キロメートル

所要時間 9時間(うち昼休憩30分、その他小休止含む)

備考 ほぼ初ルート


2 3.14マーガリンショック、およびメシモク女事変
実家は生協で食料を購入しているのですが、わたしは生協でしか手に入らないマーガリンに目がないのであります。これだけ実家に買ってもらい、定期的に補給を受けている(もちろんなにかの拍子に夕食をおごるなど、お返しはしていますよ。これをできないいい大人がいんねんなあ……(後述))。

しかし折りからの原料高騰により、このマーガリンが当面のところカタログから消えるというのです! あまりのショックでわたくし呆然としてしまった。この事件を3.14マーガリンショックと呼びます。これからなにを楽しみに生きていけばいいんだ……。

なぜこんなことをクダクダ書いたかというと、くだんの超貴重となった生協マーガリンを土曜日にもらいにいっていたのですね。そして日曜日に山行と相成ったと。実家から春日村は目と鼻の先ですので、前夜はさんざんっぱら夜更かしをしてしまった。

わたしは実家に帰るたび、実妹と時間の許す限りしゃべり散らかしております。この日もそれをやってしまい、眠りについたのが午前3時すぎ。なにをそんなにしゃべっとんねんという話なんですけど、婚活で出会った女性の愚痴をクドクドとやっていたのでした。

いやあ、たまげたね! その女性とはマッチングアプリで出会いまして、都合4回お会いしました。食事負担金の戦績は以下の通りです。

1回め 名古屋駅でディナー 全額負担

2回め 美術館+ランチ 美術館チケット代金のみこちら負担、ランチはおのおの負担

3回め 岐阜駅にて買い物 カフェ代+ディナー全額負担

4回め 明治村 ランチ+カフェ代+ディナー全額負担

 

あの……これ普通なんスか? わたしが37歳、相手が29歳なので年上なら払えよという意見もあろうかと思いますが、ほぼ全額負担してるっていうね。これまだ付き合ってないんだけど、最近の若い娘はこういうモンなの? 恋愛経験なさすぎてようわからん。

 

初回、2回めくらいまでは全額負担でもいいけど、普通おごられたら返さなきゃ! と思いませんか? わたしは友人におごってもらったら、必ずお返ししますよ。つーかそうならない心境が理解できん。おごられっぱなしで平気でいられるような図太さがあるのか、メシモクなのか。それとも一種のパパ活なのか!?

 

この娘とこれ以上付き合うべきか、非常に悩んでおります。小さい男と言われればそれまでですが。その手の愚痴を妹に延々と垂れ流してしまったわけです。ちなみに彼女は完全割り勘派とのこと。そこまでは求めてないけれど、せめて7対3くらいで勘弁してもらえまいか……。

 

3 やっと山

冒頭から無関係な婚活の愚痴をさらしてしまった。早速いきましょう。春日村初若周辺に駐車し、8:30発。出発地点は例によって春日村です。初若より若干南の、長谷川と押又谷の出合付近に南東へ延びる尾根があります。そこがとりつき。作業用と思われる林道からとりつけます。しょっぱなからこのゲートを乗り越えるのに苦労しました。

林道の先には半壊した作業小屋らしき建物が。春日村は林業や炭焼きを生業にしている人が多かったので、その遺構でしょう。父方の祖父もこの村で炭焼きをやっていました。酒を飲んでは祖母を殴る、どうしようもないロクデナシでしたが。わたしが執拗に酒飲みを嫌う理由のひとつです。ルートは右手に見切れている方面へ向かって尾根にとりつきます。

おそらくこの尾根も往時は林業関係者によく踏まれていたのでしょう、道っぽくなっており、歩きやすいとまでは言えないものの、踏破困難ではまったくないです。今回は履きなれた夏靴に変えているので靴擦れもなく、ストレスフリー山行。これだけで印象がずいぶん変わります。

植林された杉林をぐんぐん登っていきます。これ、夏は絶対ヒル地獄ですね。

調子よく登っていたんですけど、一部、このようにすさまじい藪ゾーンがありました。まあこういうのはバリルートの宿命ですね。藪のないバリルートはバリルートにあらず。これを論理的に記述すれば、

 

命題 バリルートには藪がある

対偶 藪がなければバリルートではない

 

となりますね。以上のことから本ルートはバリルートである。以上、証明終わり! ちなみにこの藪は左から巻けました。藪があっても正面突破を試みるのではなく、まずは巻けるかどうかを考慮してください。どうしても無理な場合は薄いところを見極めて突っ切る。それが〈藪道〉であります。

9:20、602メートルピーク着。なんの銘板もない閑静なピークです。杉の植林がこんな山奥まで! ヤマヒルまみれになりながら林業に従事する人びとにはまこと頭が下がります。

ピークに乗り越すと、なにやら林道らしき代物にぶっつかりました。この林道は地形図に載っていなかったので、ちょっと面食らってしまった。ホンマ、奥美濃はどこにでも林道がありよる。

林道は例によって錯綜しているので、適当に歩かないように。分岐が出てきたら面倒くさがらずに地形図と照らし合わせれば、迷わないはず。稜線の真上を林道が走っているのはめずらしい。

10:30、県道に降りてきました。県道に出たら、ひたすら南下します。この道はいつか車で走ってみたかったのですが、意図せず徒歩で走破することになろうとは。本道は春日村古屋から垂井町まで縦断している香ばしいルート。災害で通年通行止めになっている開かずの道路であります。

伊吹山が垣間見えました。これからあそこまで行くのか……。ただこのときはけっこう余裕があって、時間が余ったら北尾根を経由して下山しようかしらん、などと能天気なことを考えていました。後述するけれど、最後の最後で一発かまされます、北尾根経由で下山? バカも休み休み言ってほしいものです。

10:45、岩手峠着。この峠にずっときてみたかったのですよ! 先述したようにこの県道は通年車両通行止めで、ほぼ走破不可能なコンディションなんですね。在所の春日村から垂井まで抜けられる山間の間道。想像しただけでゾクゾクしてくるでしょう? しない? ああ、そう……。

峠とはいっても車道が思いっきり通っているので、峠の趣はありません。

好展望地もあり、ご覧のように美濃の山々を一望できました。こういう景色を見るにつけ、登山をやっていてよかったと(ほんの少しだけ)思うのであります。

 

岩手峠からは稜線へシフトし、すぐにまた林道に出ます。しばらく林道を歩き、うまいこと伊吹山の南東に伸びる長大な尾根にシフト。このあたりは複雑な行程になるので、ジオグラフィカなどのGPS必須でしょう。行かれる方は地形図をよく読んで予習しましょう。いないとは思いますが……。

11:50、781メートルピークについに遷移! なにをそんなに興奮しているのかというと、このピークがある南東稜線は、4年前わたしが敗退したときに辿った稜線なのであります。黒星のついたルートにようやく乗ったわけであります。

さらにガンガンズンズングイグイ上昇していき、12:35、905メートルピークに。きりもよいし、便意も耐え難いほどだったのでここでお昼にしました。こんな誰もこないであろうピークにも三角点があるのは驚きです。

 

この日は微風が吹く程度の穏やかな陽気で、暑くもなく寒くもなく、理想的な気候でした。どっかりと土の上にあぐらをかき、YOUTUBEを垂れ流しながらいただくランチ。派手さはないけれど、ぜいたくな時間でありました。13:05、伊吹山を攻め落とすべく出発です。

905メートルピークから道は直角に折れます。ここ要注意! 留意していないと谷へ降りていってしまいます。ここに限らず伊吹山南東尾根は、尾根が褶曲していて縦走しづらいという特徴があります。ピークに着くたび、進行方向を確認しましょう。実際ジオグラフィカに頼り切りでした。

13:40、ドライブウェイにいったん合流です。ようやく伊吹山が射程圏内に入った感がありますね。実はこの地点、冒頭でお話しした4年前の敗退地点なのであります。感慨深いですなあ。今日はむろん白星を狙っているので、このまま続行。

 

ここはちょっとわかりづらいので補足しておきます。このままダラダラドライブウェイを歩いてもよいのですが、それでは登山とは言いがたい。なるべく本来の稜線を歩くべきです。

 

ドライブウェイに合流したら少し進み、左手の尾根からとりついてください。とりつきは荒れているし、以降も荒れっぱなしでかなりの急傾斜ですが、なんとなく道のような名残りはあります。そこを無理くり登っていってください。道路をチンタラ歩くよりはショートカットにはなります。

急傾斜を登りきると、また道路に合流します。ここからしばらくはドライブウェイを歩かねばどうにもならないので、観念してブラブラと歩きましょう。

 

ところでブラブラ歩くという言葉を聞くと、故小林泰三氏のSF小説「天獄と地国」を思い出しますね(思い出さない、というツッコミは厳禁です)。氏は角川ホラー小説大賞の記念すべき第一回受賞者で、受賞作品は「玩具修理者」。実はわたし、この「玩具修理者」に収録されている「酔歩する男」という中編にガツンとやられてしまった一人であります。

 

どんな内容なのかといえば、ずばり量子力学のコペンハーゲン解釈を元ネタとしたホラーSFといったところでしょうか。なんのこっちゃ? と思った読者はぜひともご一読ください。わたしはこの1冊がきっかけで、SF小説沼にはまり込んだ口でした。

 

そして氏の奔放な想像力が遺憾なく発揮されたのが、先述した「天獄と地国」ですね。字面からわかる通り、舞台は重力が逆転した世界で、主人公たちは宇宙空間へ絶えず落ちていく、ダイソン球の外側で暮らしています。この世界ではつねに大地からぶら下がっていなければならないので、まともな建造物はなく、人びとは外縁に穴を穿った穴ぐらで生活しているのです。

 

文明は当然育つことはなく、かつて存在したロストテクノロジーを糧にして、①空賊、②村人、③落穂拾いという3人種が資源を奪い合いながらしのぎを削っています。空賊船は〈飛び地〉と呼ばれる小惑星から何万キロメートル単位の距離を、事前に計算して飛んできます。〈飛び地〉はダイソン球と同期していないので、複雑な軌道計算が必要なのでしょう。

 

船には原子力エンジンが搭載されており、フライホイールへブレーキ時の余剰エネルギーをため込み、無駄なく運用しているという描写も(したがって空賊船が大地に激突したりすると、すさまじい核爆発が発生します)。このように本作の住人たちは生き残るため、理科系の知識に例外なく長けています。

 

なぜ重力が逆転しているのかは読み取れなかったんですけど、作中の主人公たちはダイソン球が猛烈な速度で回転しているため、遠心力によって放り出されてしまう、と解釈していました。でもこれは物理学的におかしいので、そう思い込んでいるという設定なのでしょう(地球もすさまじい速度で自転していますが、われわれは放り出されたりしてませんよね)。

 

※ダイソン球とは

恒星を包むように人工の天体を建築することで、太陽光エネルギーを100%の高率で吸収できるようにするという、宇宙工学のアイデア。フリーマン・ダイソン氏が考案したのでこう呼ばれる。発展した文明の居住地は必然的にダイソン球の内部になるだろう、というのが彼の持論。ダイソン氏はほかにもアストロ・チキンなど、ユニークなアイデアを披露している。

 

さて話があちこちに飛んで恐縮だけれども、冒頭のブラブラするという言葉でなぜ、「天獄と地国」を想起したのか? この世界では重力が反転しているので、大地に立つことができません。小型宇宙船から出て大地を歩くときは、宇宙服から伸びる爪を打ち込み、ぶら下がって移動するのですね。これを作中では「ぶらっていこう」と表現していました。ブラブラからこの特異な表現を想起したわけです。そんだけ。

 

とにかくページをめくる手が止まらない、よい意味でエンタメに振り切ったハードSF(なのか?)。ぜひご一読ください。

 

作品名 天獄と地国

著者 小林泰三

ジャンル ハードSF

おススメ度 ★★★★☆(5点満点中4.5)

意図せず無関係な話題が長引いてしまいました。14:05、ここが伊吹山本峰へ直結する最後の尾根へのとりつきです。この南東尾根はおそらく、ドライブウェイが伸びてくる以前から登山道がつけられていたのでしょう、とりつきにはペナントがたなびいていました。

 

さてここからは一気呵成に登るだけです。ファイト!

 

後半へ続く