ともに年を重ねる喜び、今回も
今も頭の中であの高音を反芻(はんすう)し続けている。66歳。ジジイぶった自虐的発言で笑わせようが、歌い出すと透明な美声はやっぱり“小田さん”だった。
6月28日から10月29日まで続く3年ぶりの全国ツアー(東北・横浜は2年ぶり)。新アルバム「小田日和」を中心にした構成だ。そのレコーディング映像から始まり、作詞・作曲・編曲をすべて担い、苦しむ姿も隠さない。「そんなことより 幸せになろう」を皮切りに次々と新作を披露、アンコールを含め3時間近く豊潤な時間を味わった。
小田は新作で、今の年齢だからこそ生み出せる、人生の応援歌を味わわせる。それはラブソングも同様。「やさしい風が吹いたら」は、聴衆それぞれの思い出に寄り添う、切ないバラード。「うまく歌うことより心」と話していたが、余計な音や言葉を排したシンプルな曲ゆえ、想像力を刺激し、目の前に追憶風景すら広がる世界は、若いアーティストには醸し出せない。
東京でのコンサート2日目だったこともあり、冒頭は疲れが残っているように見えたが、歌うほどに調子を上げる。最大の魅力である伸びのある高音は健在。ウクレレをつま弾きながら、シンプルに歌声を聴かせる「この街」や、アカペラのハーモニーに身を浸せる「愛になる」など、目をつぶって聞き入った。
客席は団塊世代から10代まで幅広く、男性も多い。年齢にあらがわぬ自然体の新曲と格好よさ。ともに年を重ねる喜びを毎回、感じる。7月13日、千駄ケ谷の東京体育館。(飯塚友子)