しとやかに振る舞っていた美しい娘が、豹変(ひょうへん)する。着物の裾をはだけて大あぐらをかき、片肌脱いで、桜吹雪の刺青(いれずみ)を見せつけた。
▼幕末から明治にかけて活躍した歌舞伎作者、河竹黙阿弥(もくあみ)による通称『白浪五人男』の一場面である。白浪とは、盗賊を指す。「知らざあ言って聞かせやしょう」。浜松屋という呉服商に押し入るために、武家のお嬢様を装って下見に来ていた。ところが男と見破られ、弁天小僧が名乗りを上げる。
▼寺の賽銭(さいせん)箱から銭をくすねたのが始まりだった。枕捜しに美人局(つつもたせ)、ゆすり、かたり、などとこれまで働いた悪事を並べ上げる。枕捜しとは、夜、人の寝ている間に金品を盗むことをいう。睡眠薬で相手を眠らせて、現金などを奪う、今でいう昏睡(こんすい)強盗に当たる。