■ドミトリー・トレーニン氏(在モスクワ・カーネギーセンター所長)
イスラム教スンニ派の過激派組織「イスラム国」がシリアからイラクへと勢力を拡大することは十分に予想されていた。第一次大戦後に形成された、中東地域の国境線や秩序はもはや持ちこたえられず、いくつかの国家が崩壊する可能性がある。私たちが目にしている中東の地図はおそらく変わることになろう。
イラクの解体があり得るほか、長期的にはシリアの行方も分からない。レバノンの国家構造はたいへんもろい。サウジアラビアの王制に事態が波及する劇的な展開すら考えられる。
また、一連の動きで重要なのは、クルド人がイラク北部の油田地帯キルクークを掌握したことだ。クルド人が近い将来、独立国を持つ可能性は高い。クルド人はトルコやイランなどにもいるため、クルド国家の誕生は中東の政治地図に大きな影響を及ぼすはずだ。
この問題をめぐる国際関係について言えば、2001年9月の米中枢同時テロ後、多くの国が共通の利害に基づいて結束したのに似た側面がある。米国とロシアは、ウクライナやシリア問題での対立にもかかわらず、イラクではともにマリキ政権を支援している。サウジと並ぶ地域大国であるイランも事実上、イラクについては米国の同盟国だ。