【ワシントン=青木伸行】イラクから2011年に米軍を完全撤収させたオバマ米政権は、イスラム過激派組織「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)の勢力拡大により、イラクという「負の遺産」への“回帰”を余儀なくされている。同組織の伸長を阻止できなければ、完全撤収は「失政」だったとの評価を免れない。だが、取り得る選択肢は限られており、米軍完全撤収に代表される政権の国際協調路線がイラクで試されるという皮肉な状況にもある。
オバマ政権はこれまで、イラクへの支援策として装備と武器、資金、機密情報を提供し、軍への訓練を施してきた。情勢の緊迫化を受け、政権はこれらの支援を強化する方針だ。
だが、イラクが迅速な提供を要求している攻撃ヘリコプターAH64アパッチ、F16戦闘機、偵察機などの供与にはなお時間を要する。ISILが首都バグダッドをうかがい、「時間と判断の遅れこそが真の敵だ」(米政府筋)という状況下で、焦りの色は濃い。
そもそも政権は当初、イラク軍だけでISILの勢力拡大を阻止できるとみていたという。軍事介入については、「政権内に欲求はあまりない」(軍事筋)とされ、政権は早々に、「地上軍の投入は検討していない」(カーニー大統領報道官)と表明している。これはイラクに後戻りするつもりはない、との明確な意思表示でもある。