どぶ川の臭い。台所にこびりつく炒め油の臭い。実際にあった親子共謀による殺人・死体遺棄事件をモチーフにした舞台「殺風景」(作・演出、赤堀雅秋)には、人が生きて垂れ流す、ありとあらゆる生臭さが描かれている。
狂気の殺人に走った一家の次男・稔を演じるのが、「Hey!Say!JUMP」の八乙女光(23)だ。元炭坑夫で今は小さな暴力団の組長・菊池国男(西岡徳馬)と、売春スナックで働いていた母マリ(荻野目慶子)、兄(大倉孝二)の家族4人、電話代にも困る暮らし。一方、隣家で闇金業を営む節子(キムラ緑子)は羽振りがよく、どことなく国男一家を見下している。そして、これといったきっかけもなく始まる無計画な連続殺人。淡々としたセリフのやりとりが、日常と地続きにある殺意の空恐ろしさを浮き彫りにする。
「最初はなんでそうなるのか、全然理解できず、違和感しかなかった」と八乙女。なぜ隣人を殺すのか。なぜ稔は「俺がやる」と拳銃を手に取るのか…。稔と40年前の国男を演じる八乙女は、実際の事件の記録や、炭鉱の盛衰に関する本などの資料をあたり、国男一家の暮らしに深く想像をめぐらせた。すると「体から役がにじみ出てくるようになってきた」という。
「何かの拍子に心の糸が切れたら、ぶわっと泣いてしまうような、そんな境遇を生きる人たち。命がけで炭鉱で働いたのにこのありさまという国男のやるせなさや怒り。稔も、本心では『俺は殺(や)りたくない』って叫びたいと思う。踏み違えたら崩壊する2人の人生の“一歩の重さ”を感じながら演じています」
東京・渋谷のBunkamuraシアターコクーンで上演中。25日まで。問い合わせは同劇場(電)03・3477・3244。大阪公演あり。(津川綾子)