新進演出家として活躍が目覚ましい小川絵梨子が、英劇作家マーティン・マクドナーの人気作を翻訳・演出した。アイルランド西部、荒くれた村に住む「救いがたい」兄弟の話だ。
兄コールマン(堤真一)は仕事もせず金欠、弟ヴァレン(瑛太)は聖像のフィギュア収集に余念がない。2人はつまらない理由から取っ組み合いの喧嘩(けんか)ばかりしている。
この教区に赴任したウェルシュ神父(北村有起哉(ゆきや))は、兄弟を更生させようとするも奮闘むなしく、酒におぼれている。どん詰まり感が覆う中で、酒を密売して稼ぐ口汚い少女ガーリーン(木下あかり)だけが生気を帯びている。
兄弟の低レベルの争い、神父の説く倫理と現状との落差は実に滑稽だ。
堤は悪ノリを痛快に演じ、瑛太は挑発的に呼応する。北村は、翻弄される善人の悲惨さを巧みに表現した。小川演出は役者の持ち味を丁寧に引き出して、舞台を弾ませる。
照明を絞った桟橋の場が深い。絶望して「街を出る」という神父は、兄弟にあてた手紙をガーリーンに託す。ここで彼女の本名がマリアだと明かされる。しかし、キリストの母と同じ名を持つガーリーンの愛は神父を救えない。
辺鄙(へんぴ)な村の卑俗な出来事を扱いながら、神話のような寓意を感じさせる。人間の愚かしさと、隠れた聖性との対比が優れた舞台だ。
6月1日まで、東京・初台の新国立劇場小劇場。(演劇評論家 小山内伸)