宮城県石巻市の開成、南境地区の仮設団地。約1900戸、約4千人が住む市内最大の仮設団地。その一角にあるのが石巻市立病院開成仮診療所だ。
同診療所は平成24年5月に開設。所長を務める長純一医師(47)。地域医療の先進地といわれる長野県の佐久総合病院に勤務していたが、「医療を通じて地域を守る」という信念の下、志願して石巻に来た。長医師は「大きな被害を受けた東北という医療過疎地域で、地域医療のあり方や医療者の確保や育成に関わりたかった」。目指すのは「地域のニーズに応える医療」だ。
◆進む高齢化
「眠れていますか」「食欲はありますか」。長医師は患者に必ずこう聞く。鬱病の兆候を見るためだ。被災地での心の問題は想像以上に大きかった。「地域の人にとって心の問題を医療職や専門職に話すハードルが非常に高いと感じました」(長医師)
震災から3年。経済的な理由で受診できない、諦めて投げやりになるなど、さまざまな悩みや問題を抱える人がいる。だからこそ、外来だけでなく、訪問診療にも力を入れる。長医師は「待っているだけではなく、出向くことも必要」と話す。そのうえで、保健師や地域で支援活動を行う人、住民など多様な人との連携が重要だと指摘。「社会的な課題も大きい。薄く広くでもいいから健康問題のセーフティーネットをつくらないといけない」
震災は地域に潜在していた課題を浮かび上がらせた。石巻市は震災によって急速に高齢化が進み、23年3月末で26・71%だった高齢化率が25年12月には28・2%にまで増加。地域の絆は破壊され、仮設住宅で孤立する人も少なくない。高齢者が増える中、求められているのが、拠点病院に医師を集約し、生活圏域では総合医や介護福祉関係者らが訪問や予防を行う地域包括ケアの実現だ。