1月5日。第66回全日本バレーボール高校選手権(春高バレー)1回戦で、4年ぶりに全国の舞台に立った岩手県立高田高校(陸前高田市)。コートに立つ妹、梨衣(3年)に向け「最後まで頑張れ」と声援を送る兄の姿があった。国士舘大3年で、陸上部員の佐藤征平だった。
3年前、震災に見舞われたのは、佐藤が国士舘大への進学を、妹は高田高校への入学を控えた時期だった。中学2年のとき、体育教諭に「体格がいい」と砲丸投げを勧められ、競技歴1年で全国大会に出場し、高田高校3年の高校総体で5位に入った佐藤。日本代表を多数輩出する同大陸上部に「憧れ」、大学で鍛え、いつか世界で活躍したい-。そんな夢を膨らませていた時期だった。
高台にある実家は、津波の被害からは免れた。それでも余震と停電が続く中、1つの部屋で母、きみえさん(52)と妹と3人で肩を寄せ合い眠った。市役所職員だった父、正彦さん(当時55歳)が犠牲になったことを知ったのは、1週間後だった。
想像を絶する被害を被った故郷、そして家族から離れていいものか、悩んだ。そんなとき、背中を押してくれたのは「頑張ってきて」という妹の言葉。同時に、いつも大声で応援してくれた父の顔が浮かんだ。「人生一度きり。自分の限界まで陸上をやりたい」と故郷を出る決断を下した。