世話物を通しで2題。
昼。歌舞伎座では初上演の四世鶴屋南北の「心謎解色糸(こころのなぞとけたいろいと)」。赤城家の重宝“小倉の色紙”盗難物語を縦糸に、鳶(とび)の左七(市川染五郎)と芸者小糸(尾上(おのえ)菊之助)の恋のもつれ、小糸の兄で遊び人の九郎兵衛(染五郎の2役)と女房お時(中村七之助)のゆすり騙(かた)り人生、赤城家家臣、綱五郎(尾上松緑(しょうろく))の重宝探しとお時の妹お房(七之助の2役)との恋などが横から斜(はす)からからむ。一見複雑怪奇も、役者たちの熱情が早替わりを混ぜて軽快に弾ませる。
染五郎は粋な左七とワルの九郎兵衛をきっちり見せる。芸質ゆえで安心感と好感度を生む。「雪の笹藪の場」の九郎兵衛としての幼い鳥追い殺しは、実は娘と知らず殺す残忍シーンだが、ニヒルさより型の美が極まる。小糸を殺す左七にも悪の華が映える。菊之助の小糸は花道の出から終始圧巻の女方。松緑は硬軟、人物が宿す哀歓の表出が見事である。
「大通寺墓所の場」へ至る、お房に毒薬を飲ませて仮死させ、墓に葬(ほうむ)った後掘り返し蘇生(そせい)させるくだりは、シェークスピアの連想より善悪は表裏一体、その極点からは笑いがこぼれ出る南北の人間世界を堪能させた。
夜。河竹黙阿弥の「青砥稿花紅彩画(あおとぞうしはなのにしきえ)」。「初瀬寺(はせでら)花見」から「滑川(なめりがわ)土橋」までが出て、「白浪五人男」がまるごと分かる。染五郎初役の日本駄右衛門、弁天小僧の菊之助、南郷力丸の松緑、忠信利平の坂東亀三郎、赤星十三郎の七之助。勢ぞろいに華やぐ。25日まで、東京・銀座の歌舞伎座。(劇評家 石井啓夫)