【書評】『シベリア抑留全史』長勢了治著 | 毎日のニュース

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 ■共産国家が起こした悲劇

 旧ソ連が第二次世界大戦後、日本人約60万人をシベリアなどに抑留した問題を日露の豊富な文献を基に分析した600ページ超の大著。抑留の実態のみならず、第二次大戦前に両国が置かれた国際情勢や、ソ連軍による旧満州などへの侵攻など内容は多岐にわたる。シベリア抑留がいかにソ連の最高指導者スターリンの明確な意思と、ソ連という共産主義国家システムにより引き起こされた悲劇であるかを痛感させられる。

 著者はスターリンが「対日参戦を決意した段階で日本兵のソ連領への連行も決めていたのは確実」と主張する。抑留をめぐっては、関東軍によるソ連への労働者提供の密約が存在したとの説が根強く残るが、その根拠とされる文書がスターリンによる抑留の極秘指令後に作成された事実などを挙げ、密約説は「客観的、文書的裏づけのない推測以上ではない」と結論する。

 そして、ソ連に侵攻したドイツと「ソ連に一方的に侵攻されて損害をこうむった」日本は立場が逆だったにもかかわらず、「すでに3百万人以上のドイツ人捕虜を自国に連行して味をしめていたスターリンが、日本側の意向にかかわりなく日本兵をソ連に連行したと見る方が自然」とし、ソ連の対独、対日行動の類似性を詳細に検証している。