定期的に行われている落語会では一番北での落語会かもしれない。北海道士別市朝日町の、あさひサンライズホールでの落語会だ。
JR士別駅からバスで約30分。駅で2時間近く待ち乗り込んだが、終点の朝日に着くまで、乗ってきた客はいなかった。朝日町は開拓の町で、本格的に開拓が始まったのは明治38年。
「離島を除いて、一番不便なところ。コンビニもありませんから」と、同ホールの館長、漢(はた)幸雄さん(54)は話す。
あさひサンライズホールは来年9月に20周年を迎える。縁があり、今では柳家さん喬が定期的に落語会を行っている。それ以外にも小さん、米朝、志ん朝、談志とそうそうたる落語家がここを訪れている。
「(先代の)円楽師匠だけは、縁がなくて来ていない」
こういうことがあった。
その日、さん喬の落語会を行う予定だったが、旭川空港に飛行機が降りることができず羽田空港に引き返した。
「あす、また行くから」と、さん喬から電話があり、漢さんは連絡のつく限りのお客を再び集めて、翌日に落語会を行った。
「最初、さん喬さんを呼んだのは、僕が個人的な残業手当があったので、それで」というのがスタートだった。だから、大きなホールではなく、小さいホールでこぢんまりとした落語会だった。
それは極楽落語会と名付けた。
「本当は僕ひとりで聴きたいんですが」と漢さん。今では80人から100人の落語会となった。
朝日町は1400人ほどだから、落語の客がいかに多いかが分かる。
「この地域はかつては電波難視聴地域だった。全局のテレビを見ることができるようになったのは、この2年ほど。よく関東の人はラジオを聴いて落語が好きになったというが、ここはラジオも聴けなかった」
そうした地域に、落語を根付かせた。