【世界史の遺風】(90)カラベキル トルコ建国、もう一人の主役 | 毎日のニュース

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 10日ほど前、英国の名優ピーター・オトゥールが逝去した。かつて映画「アラビアのロレンス」で主演したことは日本人にも周知であろう。

 第一次大戦時、考古学者にして英軍の現役将校であったトマス・ロレンス大尉は、ドイツを支援するトルコを後方から攪乱(かくらん)し、トルコ支配下にあったアラブ民族の独立運動に身を投じた。その経験を記した大著『知恵の七柱』のなかで、こう語る場面がある。

 「キャーズィム・ベイは堅実な人柄のように見え、高い教育を受けているとの噂である。彼は、恐らく、ハリルの弱点である頭脳と慎重さとで役立っているのだろう」

 英軍の将軍への包囲網を解くために、ロレンス大尉はトルコ軍の司令官ハリルと交渉している。その側近の軍団長だったのがキャーズィム・ベイと名指しされたキャーズィム・カラベキルである。酒豪で享楽的だが快活な勇将であるハリルに比べ、頭脳明晰(めいせき)にして沈着冷静な智将ともいえるのがカラベキルであった。観察力あふれるロレンス大尉はそのような印象をいだいたのであろう。

 少年期のカラベキルは、父の軍務と転勤にともなって、アルメニア人やクルド人の居住するアナトリア東部、さらにアラブ人の住む聖地メッカで過ごした。トルコ人の少ない地域で育ったことは、カラベキルの広く複眼的な世界観を育んだにちがいない。