北京市郊外、西山風景区に広がる福田霊園には、変わった墓碑がある。
「一九一四年-一九九一年 先母 李雲鶴之墓 女児 女婿 外孫敬立(亡き母 李雲鶴の墓 娘 娘婿 孫建立) 二零零二年三月」とだけ刻んである。
死者の出身地や経歴などの情報は一切ない。中国では墓を建てた人の名前を墓石に記すのが一般的だが、なぜか伏せられている。亡くなった11年後に墓を建てているのも不思議だ。
実はここに眠っているのは、毛沢東夫人の江青女史である。文化大革命中に大きな権勢を振るったが、1976年の毛沢東死去直後に失脚した。反革命罪などに問われ執行猶予付きの死刑判決を受け、病気療養を名目に仮釈放中の91年、北京市内で自殺した。
江青氏は生前、多くの共産党幹部や知識人を迫害したことから、恨みを持つ人間に墓が破壊されるのを警戒した娘の李訥(とつ)さんが遺骨を自宅に保管。2002年、党中央の許可を得て福田霊園に墓を建てたものの、世間に知られないように、墓石には江青氏の本名、李雲鶴と刻み、家族の名も伏せたのだった。
しかしその後、「江青の墓が北京郊外にある」と香港メディアがスクープし、結局、広く知られるところとなった。
◆「国民の祝日にして」
「江青の墓がここにあるおかげで助かっています」と話すのは、霊園の外で生花店を営む中年男性だ。今年になってから毎日2、3組、多い時は10組以上が墓参りに訪れるという。