【東京特派員】「ハンナ・アーレント」のすごみ 湯浅博 | 毎日のニュース

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 ユダヤ系ドイツ人哲学者を描いた映画「ハンナ・アーレント」を上映中の岩波ホールが連日、大入りの満員になっている。アーレントといえば、ナチズムとスターリン主義を批判的に論じた『全体主義の起源』の著者としてその名を知られている。

 大衆性とは縁遠い哲学者を描く映画が、いま、なぜ人々を引きつけているのだろう。岩波ホールの企画担当、原田健秀さんも首をかしげる。実はもう四半世紀も前に、大学図書館で借りた3巻からなる大書を読み始めて、すぐに挫折した記憶がある。

 1968年秋、東京・駿河台にある大学の中庭は、政府と大学当局を糾弾する立て看板が乱立していた。「学生会館闘争」と「70年安保反対闘争」が重なって全学で授業が停止した。数人の全共闘系学生が、クラス全員にスト権確立の賛否を求め、スト必至の空気が教室を支配した。意を決し、教室の後方からスト反対を叫んでみた。一瞬にして、その場の空気が凍りつくような気がした。

 よりどころは元東京帝大教授、河合栄治郎の著作だった。戦前を通じて左右の全体主義と戦った唯一の知識人だったからだ。それはアーレントの著作に通じるものがあると考えた。