■狐の葛藤に凝縮される生き方
和泉流狂言師の人間国宝、野村萬(83)の孫で、平成16年に44歳で急逝した五世万之丞(まんのじょう)(没後、八世万蔵を追贈)の長男、太一郎が、狂言師の卒業試験といわれる「釣狐」を披(ひら)く(初演すること)。祖父と叔父である九世万蔵(48)のもとで厳しい修業を積み、目標としてきた大曲。「体当たりでぶつかりたい」と23歳の狂言師は真っすぐな目で話す。(飯塚友子)
狂言の修業は「猿に始まり狐に終わる」と言われる。太一郎も3歳の時、「靫猿(うつぼざる)」の小猿役で初舞台を踏み、それから20年目の「釣狐」が集大成となる。24日、国立能楽堂(東京・千駄ケ谷)で行われる「萬(よろず)狂言特別公演 野村万蔵家祖先祭」に向け、1年前から準備を進めてきた。
「叔父の釣狐を見て、ものすごくやりたいと思った、好きな曲目です。(餌の誘惑に苦闘する)狐のしぐさに引き込まれました」
一族を絶やされそうになった古狐(太一郎)が、僧・白蔵主に化けて漁師(萬)に狐釣りをやめるよう意見するも、帰途、罠(わな)の餌の誘惑に負けてしまう-という物語。
前場は面を付け、狐の着ぐるみの上に僧衣をまとい、「獣足(けものあし)」と呼ばれる跳ねるような足運びをしながら、老人らしく腰をかがめなくてはならない。後場は四つん這いで駆け回り、餌を前に迷い、罠にかかって暴れる。極度の緊張と集中、体力が求められ、萬とともに指導する万蔵も自身の披きの前、本番通りに行った申し合わせ(リハーサル)で失神したという。