【きょうの人】「賢治の心知れば日本を分かってもらえる」 ロジャー・パルバースさん(69) | 毎日のニュース

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 ■豪の作家、「雨ニモマケズ」などの英訳で野間文芸翻訳賞

 今年没後80年を迎えた宮沢賢治(1896~1933年)の英訳詩選集で先月、優れた翻訳に贈られる野間文芸翻訳賞(講談社主催)を受けた。

 「翻訳はすばらしい原文があってこそ。私はあくまで媒体。『風』みたいなものです」と謙遜する。有名な「雨ニモマケズ」の冒頭の一節を、そのまま否定形で訳さずに〈STRONG IN THE RAIN〉と、力強い表現に置き換えた。「もっと丈夫な体を持って人を救いたい…そんな理想に向かって歩む賢治の姿を感じたから。リズムもいいでしょう?」

 米ニューヨークに生まれ、昭和42年に大学の語学教師として初来日。以来、賢治の日本語の美しさに魅了され、童話「銀河鉄道の夜」など多くの作品を英訳してきた。東日本大震災と原発事故を経た今、森羅万象の中に人間の営みを位置づけた賢治の世界観に改めて光が当たっている。

 「賢治にとって、最も大事な単語は『つながり』です。あなたは私であり、あなたの悲しみは私の悲しみである-という思いやりや慈悲をはるかに超えた考え方をする。つながりを意識することで人は強くなり、悲しみを乗り越えられる」

 戯曲やノンフィクションも手がけ、著作は約40冊に上る。成人した子供4人はみな日本で生まれた。東京工業大学教授を今年3月で退官し、現在は国籍を持つオーストラリアで創作や翻訳に打ち込む。先日、現地のラジオ番組で自ら訳した詩を朗読してみせた。

 「賢治の心を知れば、世界の人々が『日本は捨てたものじゃない』と思うはず。40年以上日本で暮らした私流の愛国心ですね」(海老沢類)