◆埼玉で教育委員長辞任
学習指導要領で指導を義務づけられた国旗掲揚と国歌斉唱を「強制」と記述した実教出版の高校教科書をめぐり、各自治体が対応に苦慮している。
同社の現行の「日本史A」と来春から使われる「日本史B」は国旗・国歌について、こう書いている。
「一部の自治体で公務員への強制の動きがある」
公務員とは先生のことだ。卒業式や入学式で国旗掲揚や国歌斉唱を無理に行わなくてもよいと言っているに等しい。これでは、公教育は成り立たない。
大阪府教育委員会は先月末、この教科書を使用する際の補助教材を公表した。補助教材には、先生に国歌斉唱時の起立斉唱を求めた校長の職務命令を合憲とした平成24年1月の最高裁判決や、国歌斉唱時に全教職員の起立を義務づけた23年6月の府条例が盛り込まれている。
府教委は7月に問題の記述を「一面的」とする見解を全府立高校に通知したが、9校がこの教科書を希望してきたため、この補助教材を作成した。
埼玉県では、清水松代教育委員長が辞任する事態になった。
県教委によると、8校が実教出版の教科書を希望し、それを了承したが、県議会から採択のやり直しを求められたという。県教委は現在、作成中の教科書を補足する「指導資料」に国旗・国歌に関する指導内容を盛り込む文案を検討している。
5校が実教出版教科書を希望している千葉県では、他の自治体から情報収集するなどして、対応を検討中だ。
一方、東京都教委は都立高校で教科書の選定作業が行われている6月の時点で、この教科書の「使用は適切でない」との通知を出した結果、実教出版を選んだ高校はなかった。
神奈川県では、28校がこの教科書を希望した。県教委が「不採択になる可能性がある」と再考を促し、全校が別の教科書に変更した。一部の団体が「県教委の不当介入」と批判しているが、高校教科書の採択権限は高校でなく教委にあり、批判は当たらない。
◆自虐史観に逆戻りも
もとはといえば、文部科学省が指導要領を踏まえた検定意見をきちんとつけておれば、今回の混乱は起きなかった。
実教出版の「日本史B」は、ほかにも多くの問題記述が検定をパスしている。
例えば、いわゆる「アジア太平洋戦争」による中国人の死者数を「1000万人」としているが、これは中国の宣伝を鵜呑(うの)みにした誇大な数字だ。
権威ある米国の「軍事史百科事典」は、第二次大戦中の中国人の被害について「軍人の死者50万、傷者170万」「民間人の死者100万」としている。
終戦後の1946(昭和21)年、国民政府の何応欽軍政部長は中国軍人の死傷者数を「321万人。うち死者189万人」と東京裁判に報告し、1978年に行った演説でも、中国の民間人を含めた死傷者を「579万人」としていた。
中国人の死者が1000万人であるはずがない。
来春から使われる清水書院の「日本史A」は「日本軍に連行され、『軍』慰安婦にされる者もいた」と書いているが、日本軍が慰安婦を強制連行した証拠は何一つない。
沖縄戦集団自決についても、日本軍が強制したとする誤った記述が復活しつつある。
最近の傾向として、検定が甘くなり、自虐史観に逆戻りしつつあるとの指摘もある。
中国や韓国への過度の配慮を求めた検定基準「近隣諸国条項」の見直しが急務だ。
◆採択含めた抜本改革を
教科書採択の仕組みも、ほころびが見え始めている。
沖縄県竹富町が八重山採択地区協議会で選んだ育鵬社の中学公民教科書を拒み、別の教科書を使用するという違法状態が続いている。
中学教科書の採択権限は市町村教委にあるが、教科書無償措置法は同一採択地区内で同じ教科書を使うよう定めている。
平成17年、岡山県総社市と茨城県大洗町が採択地区協議会の決定と異なる扶桑社の中学歴史教科書を希望したが、最終的には広域採択のルールに従い、扶桑社の使用を断念した。
文科省は近く、竹富町に対する地方自治法に基づく是正要求の指示を沖縄県に出す方針だ。当然である。
検定、採択を含めた教科書制度の抜本的な改革を安倍晋三政権に期待したい。(いしかわ みずほ)