世の中で最も嫌われる存在から見た人間とは。「この戯曲では『面倒くさいけれど、面白い存在』。人を超えた神や宗教を生み、創造物をはき出す」。文学座の演出家、上村聡史(34)がそう語る、人間を相対化する究極の“ゴキブリ目線”。18日から文学座アトリエ(東京・信濃町)で上演される松井周(41)の新作「未来を忘れる」では、そんなブリオ(大滝寛)目線が特徴的だ。
舞台は近未来。沈みかけている日本で、過酷な環境を生き抜く“次世代”として遺伝子レベルの改造を受け、人間からゴキブリの姿で生まれたブリオ。過去と未来が交錯する中、戦争や文化など人間の愚行も進化も冷ややかに見つめる。
「ゴキブリとの同化は生理的抵抗がありましたが、劇中、なぜ生まれたのか-などとハムレットのような根源的苦悩を抱える彼らがいとおしくなってきた」。大滝が苦笑まじりに話す。
とはいえゴキブリへの異物感は大きいが、その狙いを上村は寓意(ぐうい)性と語る。「松井作品は、個人と社会を対立構造でみるのではなく、両者が混じり合う作風。虫目線で人間を意地悪くみるが、それは違いがあふれる世の中で、人間は過去の業をどう受けいれるかということ」
表題については、「過去を忘れること。だから今、どう生活するか。人間の営みが感じられる舞台になればいい」。実験的作品になることは間違いない。11月1日まで。問い合わせは文学座フリーダイヤル0120・481・034。(飯塚友子)