■時間旅行と歴史改変に真っ向から
13日、キングファンにとっては待望の翻訳新刊が発売となった。上下巻各530ページ前後の、しかも2段組みという重厚さだ。米国では2011年に発表されて、発売直後から大きな話題となり、ロサンゼルス・タイムズ文学賞のミステリー/スリラー部門と、国際スリラー作家協会賞の長編部門の2賞を受賞している。
タイトルの数字は、1963年11月22日のことだ。今年から逆算すると、ちょうど50年前になる。この日、テキサス州ダラスを訪れた、時の米国大統領ジョン・F・ケネディの身に何が起きたかは、今や世界の知るところだ。この事件で歴史の流れは大きなうねりを見せ、その後の世界史は、多くの人命を失い泥沼にのめり込んだベトナム戦争など、さまざまな暗雲をたぐり寄せてしまった。
もちろん、一度起きてしまった悲劇を「なかったもの」にはできない、はずだ、きっと、たぶん。いや、そうともいえなくなってきたぞ…。ストーリーテリングの巨匠が、時間旅行と歴史改変というH・G・ウェルズ以降の古典的テーマに、初めて真っ向から取り組んだ新作は、秋の夜長の読書タイムを贅沢(ぜいたく)なミステリー空間に変えてくれる。(文芸春秋・各2205円)
宝田茂樹