東京電力福島第1原発事故で立ち入りが禁止されている福島県内の帰還困難区域内で8日、事故後初めてお盆期間中の一時帰宅が始まった。対象は浪江、双葉、大熊、富岡の4町で、町民ら約450人が区域内に入り、墓参りをして故人をしのんだ。
立ち入り禁止区域への一時帰宅は平成23年5月から行われている。被曝(ひばく)を防ぐため長袖の着用が求められており、これまで暑さの厳しい8月は実施されなかったが、住民からの要望で今回初めて実施した。
「わが家の墓はどこ?」
富岡町の墓地で、町内に住んでいた主婦、猪狩ヒロ子さん(70)は思わずつぶやいた。東日本大震災で墓石はバラバラに倒れたまま、雑草が背の高さまで生い茂って足の踏み場がない。放射線量は10分ほどで毎時6・5マイクロシーベルトに達した。適当な場所で花を供え、手を合わせた。「死んだ人がかわいそう。墓だけでも先に除染できないのかな」と肩を落とした。
3月の区域再編で日中の出入りが自由になった居住制限区域の町内の墓も訪れた。猪狩さんは郡山市への移住の準備を進めており、夫の剛さん(72)は「墓のそばに住み続けられなくて申し訳ない」と話した。
富岡町の元自営業、佐藤圭一さん(66)も荒れた墓を前に、どこで手を合わせていいか分からなかった。避難直後の23年5月に母親が死去。「葬式らしい葬式もできなかった。まともに供養できず、言葉にならないほど悔しい」と話した。
原発事故でお盆の風景は一変した。双葉町の主婦、森田タミ子さん(64)はこの日、夫と2人で親族の墓参りを済ませた。「お盆は親族が集まって家で過ごしたけど、今年は夫婦だけで墓参りした。寂しいお盆になってしまった」と残念そうに話した。