『プルートゥ PLUTO』
オススメ度: ★★★★★
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原作 : 浦澤直樹 X 手塚治虫
演出/振付 : シディ・ラルビ・シェルカウイ
出演 : 森山未來 (アトム)、土屋太凰 (ウラン/ヘレナ)
大東駿介 (ゲジヒト)、吉見一豊 (お茶の水博士/Dr.ルーズベルト)
吹越満 (アブラー博士/教授)、柄本明 (天満博士/ブラウ1589)
劇場 : 2018年1月12日(金) Bunkamuraシアターコクーン
http://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/18_pluto/
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2018年観劇記録その2.
この舞台のためにブログリスタートしたと言っても過言ではない、
本当に本当に見たくて見たくて、楽しみにしていた舞台。
感じたことがあまりにも多すぎてうまく整理できていないので、
かなり長い文章になると思います。
森山未來が好きで、『自撮り365日 踊る阿呆』を観て以来、
いつか絶対、彼のダンスを見てみたいと、ずっとずっと思っていました。
土屋太凰は以前、『誰だって波蘭爆笑』でダンスについて語っているのを見て、
その真面目で真摯な性格がとっても素敵だなと思っていました。
そして、なんとなんと、前から二番目ど真ん中の席で!!!!
俳優さんたちの表情や声、舞台の細かな装置が、生で全部伝わってきて!!!!
近すぎてリアルで迫力がすごくて、今までにない体験でした。
私も友人も浦澤直樹の原作漫画を読んでいなくて、読んでおけばよかったなー。
ストーリーがちょっと難しいので、お話を追うのに結構力を使ってしまって、
それが自分でも見ながらもったいないなって思いました。
逆に、原作を知っていて原作ファンの方にはぜひ見てほしい!!!!
「原作を尊重する」ということを第一に作られているのが、よくわかると思います。
俳優さんたちのこと。
正直、この舞台で一番すごいと思ったのは、土屋太凰でした。
ウランとヘレナの演じ分けが、声も表情も動きも完璧すぎる。
先に登場するのはヘレナですが、その大人びた声と所作の後に登場する
元気いっぱいに動き回るツインテールのウランちゃんのウランちゃんたること!!笑
ちょっと特徴のある声をしている彼女ですが、それぞれの声にぴったり。
そのギャップに、同じ人が演じてるとは思えないほどでした。
もうひとつ、涙の演技がすごい。
間近で見ていたので、彼女が役に入り込んで本当に涙を浮かべていくのがよく見えて、
土屋太凰が泣いているのではなく、ウランとヘレナが泣いていました。
これを毎回やるのって本当にものすごいエネルギーだと思いました。
2015年版では永作博美だったみたいなので、きっと演出も違うんだろうな。
そして憧れていた森山未來は、生で見ると表現力が異次元の世界でした。
アトムは子どもの設定で、登場は道を歩くカタツムリを助けるシーンなのですが、
そのときの表情が、無垢で無邪気で純粋で、ただただ子どもでした。
役者は30越えた森山未來なのに、その表情があまりに子どもすぎて鳥肌立ちました。
終始、そういうひとつひとつの表情を見ることができて、本当に幸せな座席だった。。。
ダンスの動きも、気持ち悪いくらいなめらかで艶やかでとっても美しくて、
ものすごい表現力に圧倒されました。むっちゃくちゃかっこよかったです。
アトムが生まれ変わった後との二面性も、迫力満点でした。
あと、声がかっこよくて、シャウトの声量もすごかったです。
なんというか、彼は本当に「俳優」とか「役者」って感じじゃないですね。
『踊る阿呆』、DVD化してくれないかな。。。絶対買う。。。
ていうかこの『プルートゥ』もDVD化したら買いたい。。。
もっとダンスダンスした作品かと期待していたのですが、
意外とストレートプレイな感じだったので (正直ちょっと残念だった)、
今度ちゃんと彼のダンスの舞台を見に行きたいなぁと思いました。
大東駿介は、小栗旬にめっちゃ似ていて、途中から小栗旬に見えてきました。笑
彼の殺陣みたいなシーンがあるのですが、それを見ると森山未來のすごさが際立つ。。。
背も高くて肉体もかっこよくて、声もステキでした。
吉見一豊は、見た目がお茶の水博士で笑ってしました。笑
吹越満はまさにアブラ―!って感じだし、
柄本明の天満博士は不気味すぎでした。。。あとブラウの声がすごくいい。
そしてダンサーさんたちがめちゃすごい。
演出のこと。
私が普段見るお芝居は、基本的にテキストのみの原作があって
「文字で書かれている内容を、どう視覚化して舞台に乗せるか」というものが多いです。
文字の内容をどう表現するか、書かれていない部分をどう表現するか、
読み手がおのおの想像している絵をどう視覚化するか、という観点で
文字→三次元で舞台化、が演出されています。
私自身原作があれば読んでから観にいくことがほとんどなので、
「私はこう想像してたけどこう表現するのか!」という発見が楽しい。
けれど『プルートゥ』は原作が漫画なので、すでに視覚化されている。
二次元の漫画→三次元の舞台、という演出。
今までの文字→舞台の演出とは全然違って、すごく不思議な体験でした。
パネルを使って漫画の枠を表していたり、
プロジェクションマッピングを使ってアクションの演出をしていたり、
なのにものすごく精巧でリアルなロボットはダンサーがマニュアルで動かしていたり、
世界観にわーーーっと引き込まれて持ってかれてしまいました。
多分遠くから見たほうが演出全体が見渡せて楽しめたと思うので、
そこはちょっぴり残念でした。
ロボットと人間が共存する世界、の表現も素晴らしかったです。
アトムやウラン、ゲジヒトのように人間に近いロボットは、人間が操り人形される。
でも、それがすごく先端のプログラミングみたいに表現されていて、
ロボットということだけではなく、人工知能の高さまでわかるようになっている。
アリとの表現の差別化がすごいです。
アトムが空を飛ぶシーンも、今ならワイヤーアクションいくらでもできるのに
ダンサーさんたちが森山未來をリフトしていました。
ダンサーさんのちょっとキツそうな表現とか、ピンと伸びた森山未來の震える足先とか
本当に細部まで見れて至福でした。。。
余談ですが、ハットを使った動きでダンサーさんがハットを落としてしまったときに
「あっ」って小声で言ったのも聞こえました。それくらい近かった!!
お話のこと。
ロボットは感情がない。「憎しみ」や「悲しみ」がわからない。
ロボットは嘘をつかない。
ロボットは人間を殺さない。
こういったロボットの前提が語られていますが、
「憎しみ」を理解したブラウは、初めて人間を殺したロボットになります。
ブラウは、どこも壊れていなかったし、どこにもミスはなかった。
ロボットとしては正しかったのに、ロボットとしては間違いである「殺人」を犯す。
正しさって何なんだろうって思いました。
そして、ゲジヒトやアトムやウランは、「憎しみ」や「悲しみ」を理解し、「嘘」をつき、
より人間に近い、完璧なロボットになっていきます。
ロボットが感情を理解して、人間に近づいたとき、
じゃあ今度は逆に、人間が人間たる理由はどこにあるんだろう。
AIがチェスで人間に勝ったり、人間の仕事の大半がロボットに代替されていく中、
人間に残された人間の価値として、何が残るんだろう。
この舞台を見て、私は一番そこが心に残りました。
情報量が多すぎて、本当に考えることが多くて、今までみた舞台みたいに
「〇〇が最高!!」みたいに一言でいえないのですが、
森山未來はダンス含めてめちゃくちゃめちゃくちゃかっこよかったし、
土屋太凰も表現力が素晴らしかったし、他のベテランさんもさすがだったし、
素晴らしい演出に最後まで引き込まれて、とっても濃厚な時間でした。
ロンドン、オランダ、ベルギーでの海外公演が続くのも楽しみです。
海外の方の目にはどんなふうに映るのか、自分もロンドンで見てみたかった。
今更だけど、手塚治虫、浦沢直樹の原作を読んでみようかな。