この書は、筆勢がとくに目を引く。

尊王攘夷運動に奔走した星巌の、面目躍如たる、激しい詩。

 

梁川星巌 一七八九~一八五八 漢詩人。美濃の人。江戸に出て山本北山に学ぶ。天保三年江戸に出、神田に玉池吟社を開き、藤田東湖・佐久間象山と交わり、国事を論ず。弘化三年京に上り勤王の志士らと接触。

 

  梁川星巌 七言絶句

六経四子不離口   六経(りっけい)四子 口を離れず

宛曲巧成時世風   曲 巧みに成す 時世の風を

是道是儒誰敬信   是れ道(どう)是れ儒 誰か敬信せんや

毀誉裏應聲蟲   (らい)()に毀誉す 応声虫

  星巌真逸

      *上平一東

○六経 儒学の根幹となる六種の経書。『詩経』『書経』『礼記』『楽記』『易経』『春秋』。

○四子 孔子・曾子・子思・孟子。 

○婉曲 相手に逆らわず。相手に合わせて調子を曲げること。

○応声虫 人の腹中に住み、人語に応じて声を発し、応声虫病を起こす。自己の定見をもたず、いたずらに人の言説に付和雷同する者をそしって言う。

 

儒学者たちは口を開けば六経四子で、

調子を合わせて、時代の風潮を巧みに起こしている。

こんな儒道を、誰が敬信しようか。

草むらでは応声虫どもが批評するばかりだ。

(世間では、定見をもたない連中が、人の言説に付和雷同している)

 

読み下しは、徳田武先生にご教示を賜った。

 

安積国造神社安藤家伝来書幅