梅      安積艮斎

 

槎牙老幹臥蒼苔   ()()たる老幹 (そう)(たい)()

的歴寒英冒雪開   的歴(てきれき)たる(かん)(えい)  雪を(おか)して開く

人道梅花痩如許   人は()ふ 梅花の痩すること()くの如しと

誰知吟骨痩於梅   誰か知らん  吟骨の梅よりも痩するを

         *上平十灰

○槎牙 角ばって引っ掛かるさま。 ○老幹 老木のみき。 ○的歴 くっきりと白いさま。 

○寒英 梅花。 ○吟骨 詩歌を作る精神。

 

角ばった老幹が、くすんだ青苔の上によこたわり、

くっきりと白い梅の花が、雪をものともせずに咲いた。

人は、梅の花がこんなに痩せていると言う。

私の詩心がこの梅よりも痩せたことを知るよしもない。

 

『艮斎詩略』所収

 

龍がよこたわるような形の梅の老木に、老いたわが身を重ね、その花が雪の中にも咲いたことに、生命の息吹きを感じる。

しかし俗人どもは、花が痩せているとケチをつける。彼らは、私が詩歌を作る精神が痩せ細ったことにも気づかない、との意。

梅にことよせ、機知を交え、老いの中の希望やためらいを詠みこんだ名詩である。