大須賀筠軒は安積艮斎の門人で、磐城平藩儒。

廃藩置県後、福島県行方(なめかた)宇多(うた)二郡長となる。県令三島通庸と合わず、官を辞す。

明治二十七年、現安積高校の教諭、同二十九年、現東北大学(仙台第二高等学校)教授。

  大須賀筠軒詩画(秋の農耕図)

晩帰踏月暁侵霜   晩帰(とう)(げつ) 暁に霜を侵す

連日秋晴刈穫忙   連日秋晴 刈穫(がいかく)忙し

暑耨寒耕終年苦   暑耨(しょどう)寒耕 終年苦し

僅呈喜色是豊穣   僅かに喜色を(あらわ)すは是れ豊穣

  鴎渚迂漁 印(大須賀𨁍) 印(筠軒)

      *下平七陽

○晩帰 おそく帰る。 

○踏月 月影を踏んで歩く。

○刈穫 穀物を刈りとる。 

○暑耨寒耕 暑い時期に雑草をとって柔らかく土をまぶし、寒い時期に耕作をする。『管子』「臣乗馬」に、「寒耕暑(うん)」とある。 

○終年 一年中。 

○鴎渚 筠軒の別号。 

○迂漁 世事にうとい漁夫。謙称。 

𨁍 源姓。

 

おそくに月光の下を歩いて帰り、暁には霜の中を行く。

連日秋晴れで、刈り取りが忙しい。

寒暑の季節を問わずに農耕に従事し、一年中苦痛をともなう。

わずかに喜びの表情を浮かべるのは、豊穣のときである。