前回は『技術解体新書』に書かれている「止める」について書かせていただきました。
今回は「なぜピタッと止めるのか」について書きたいと思います。
今日書きたい内容は、サッカー未経験の方にはちょっと難しいかもしれません。
しかし一歩一歩順を追って理解していけば、風間さんの思想がわかると思います。
そして風間さんの思想は、ある意味「日本サッカースタンダードとは正反対の革命的なことをやっている」のがわかるかと思います。
そしてその革命的な思想の是非は、風間哲学を踏襲した川崎フロンターレ出身選手の活躍で明らかだと私は思っています。
さらに『技術解体新書』には書かれていない『正対』についても、今回の記事で触れさせていただいています。
トラップと同時に相手のプレスがかかったとします。
そのとき大抵の選手はトラップの第一歩で「自分から動いて」プレスを回避しようとします。
大抵のコーチはそう教えると思います。「トラップの第一歩目で行きたい方にいけ」「トラップの一歩目で相手をかわせ」です。
そしてそういった技術は、もちろん身につける必須のものだと思います。
↑動画のようなトラップ練習は、今の日本のサッカー練習風景で、最も一般的なものでしょう。
ですが風間さんは、最も本質的なものとして「方向づけトラップ」の前に「ピタッと止めるトラップ」を徹底的にやります。
そのことの利点について『技術解体新書』にはこう書かれています。(以下引用太字はすべて私)
実際に静止しているのはボールとボールを保持している選手。
静止しているので見えている敵味方にブレがない。
そのため敵が動いていれば、それをはっきり認識できる。
動いている状態より止まった状態の方が、はっきりと周りを把握できるのは明らかです。
だから相手がトラップと同時にプレスに来ても、よく相手が見えています。
自分が動くことによって相手が見えなくなって、焦るのです。「見えない敵は山より大きく見える」です。
風間用語でいえば、止まっていれば「矢印を自分からは出さずに、相手の矢印だけ一方的に見える」ことになります。
矢印とは、行きたい方向のことです。
止まっているわけですから、当然相手から自分の矢印は見えません。
しかし自分は止まっているわけですから、相手の矢印がよく見えます。
実際にプレー映像を見ていただきたいと思います。
FCバルセロナで長らく活躍し、ボールキープや展開力では史上最高ボランチとも称されるセルヒオ・ブスケッツです。
ブスケッツの普通のインサイドトラップからのプレーでは「ボールの絵柄が見えるくらい」ボールが止まっているのがわかるかと思います。
1分17秒のシーンは典型的だと思います。
ブスケッツがトラップで静止して「左にいこうかな、右にいこうかな」とその場でちょっと動作を起こすと相手はその都度振り回されています。そして相手のその動きが「自分が静止していることによって」よく見えているブスケッツは難なく相手のプレスを剥がします。
映像で見ると、まるでブスケッツが相手を子ども扱いしているように見えます。
おそらくこの場面で、全力でプレスに来る相手の「目」と、静止しているブスケッツの「目」は、まったく異なった風景が見えているはずです。
相手にはピンボケした写真のように見えている風景が、ブスケッツにはきれいに写真に写った風景に見えているはずです。
さらに相手に「正対(相手と向かい合うこと。おへそを相手に向けた状態)」を一瞬でも入れられると、相手はもうボールの取り所がわからなくなってしまいます。
これが今「正対」が流行っている理由だと思います。
相手と(一瞬でも)向かい合うことによって「右にも左にもいけますよ」という状態を作ります。
この技術をトラップで入れることができるのが、レアル・マドリーのトニ・クロースです。
さらに風間さんはこう言っています。
止めることで『いま』ができる。これがすごく重要なんですよ。止めてから蹴るまで遅くてもコンマ5秒、1秒あったらちょっと遅い。
この風間さんの言葉に対して、共著者の西部さんはこう補足しています。
これは常に1秒以下で蹴れというのではなくて、止めたらすぐにパスができる場所にボールがある状態を作れという意味だ。止まったらすぐに、いつでもパスを出せる状態(もっといえば、パスもドリブルもシュートも何でもできる状態)、そもそもそれが風間監督の「止める」の定義でもある。そのボールを止めた瞬間が「いま」になる。パスを出せる、パスを受けられる瞬間だ。
↓動画でメッシを見ていただきたいと思います。
メッシはトラップしてすぐに、ドリブルやシュート、パスを行っていますね。
具体的には、たとえば左足でボールを止めます。
次の右足のあと、その次の左足ですぐにボールを触ります。
↑動画19秒ではパスを選択しています。
23秒ではシュートを選択しています。
34秒ではドリブルを選択しています。
メッシはトラップの左足の次の左足で、なんでもできるということです。
風間さんが「メッシは究極の選手」というのもうなずけます。