観察と鑑賞・その5『中心(なかご)』その1 | あさひ刀剣 店主のブログ

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お久しぶりです、久津間です。

ブログをサボっておりました。m(_ _)m

これからまたブログの更新も行っていきますので引き続きよろしくお願い致します。

 

 

前回までは刃区より上部の刀身について紹介してきました。

ということはもうお分かりですね、今回からは刃区より下の中心(なかご)について紹介いたします。

なになに、「今までより断然テンション下がるなー」ですって?

いえいえ、今までの回を読んでくださった皆様なら必ず楽しめますので、一旦騙されたと思って読んで下さい。

 

中心の観察で紹介するポイントは3点、

1.仕立、肉置

2.銘、鑢

3.錆色

です。

 

その1「中心の仕立と肉置」について、やっていきましょう!

 

 

刀には肉置と呼ばれるものがあります。肉とは平地についた膨らみ・丸みのことです。その名の通り肉がついています。

 

下の図は刀のMRIっぽい図です。

図1にある右側のカーブがついている方が肉がついている状態で、左側は肉がついていない状態です。
図1図1.肉置。ついてないやつとついてるやつ。

 

ちなみに肉がついていない刀というものは存在しません!

 

なぜ肉がついていないものが無いかというと…

 

肉がついていないと、刀はすぐ使えなくなるのです!

 

先ほど肉がついていない刀は存在しないと言いましたが、

正しくはありません。

そこも含めて、理由を説明していきます。

 

 

図2図2.肉置ある刀

図2は肉がついている刀の図を改めて描きました。

 

まず図2に示してある赤色の部分が刃こぼれをした部分です。

 

刃こぼれ(赤線)を研磨にかけてすべて取る場合に確実になくなる部分は外側にある黄線の部分です。

この黄線を取りきらないと刃こぼれは取り切れません。

 

青色の部分は、研磨の際オプションで選べる部分です。

・刃筋(灰色点線)を中央になるべく沿うようにしたり

・わずかに刃筋を中央からずらしたり(一番右が特にずらしてます)

 刀を研ぐ際に大事な、

 原型からなるべく形を崩さない + 刀をなるべく研ぎ減らさない  ことを考えて

ケースバイケースで実用性に沿うように、最適な研ぎ方が選ばれます。

 

次の図はもともと肉がない刀です。

図3図3.肉なき刀

まるまるとしてかわいい図2に比べると 鎬筋付近まで確実になくなる部分(黄線)がガッツリと太く、削らなければならない部分が大きくなっています。

 肉がないということは 刃から 鎬筋までが直線で出来ているため、研ぎ減らしたくなくても曲線がないために肉がある場合は選択可能だったカーブの角度の調整ができなくなってしまいます。

そのため直線で作られた面で削る=形を崩さない が大前提になってしまい、研ぐ際のオプション(青線)が少なくなってしまいます。

 

研ぎ減らしたくなくても形を崩さないためには大きく削らなければならず、

研ぐ度に刀は大きく減っていき、長くは使えないでしょう。

 

肉がある場合は、曲線であることが前提となるため、

刃こぼれが大きい時にも

・刀を研ぎ減らさない

・形を崩さない

どちらかを選ぶことが可能になります。そして両者は二者択一ではなくバランスをとることも可能です。

 

つまり、消費者の事を考えた 長く使える刀には肉がついているはず。

そして肉がついていない刀は寿命が短いため、現存する刀にはほぼ全て肉がついています。 

 

これが上で書いた肉がない刀が無い理由です。              

 

🦆🦆🦆

次に刀には基本的に肉がついているということを踏まえて中心(なかご)の話をしていきましょう。

 

刀身には肉がついていますが、使えば刃こぼれをして研がなければならないため原型よりもどうしても肉は落ちていってしまうのでどのような肉置の刀だったかわからなくなってしまいます。

 

一方で、中心には刃がないため基本的には欠けることもなく研ぐ必要もない部分です。

 

また刀工側からすると、刀身は焼入をするのでどうしても運に任せるしかない部分もありますが、

中心は(一部例外を除き)焼入をしないので、刀工が思った通りに作成できる部分でもあるのです。

 

さらに、誰がどの産地でいつ作ったのかという情報が刻まれている、できる限り残したい部分です。

 

つまり中心は、

・研ぐ必要がなく原型が残る

・ブランド名(刀工・産地)が刻んである

・運ではなく自分が作りたい形にできる

⇒ブランドイメージに直結します。

つまり、車でいうところの 「ベンツのエンブレム」 のようなものです。

中心を研減らすことは、せっかくのブランド品のエンブレムを剥ぎ取るベンツ狩りのようなことです。通常では考えられません。

 

そんな部分であるため、一流であればあるほど中心の仕立には気を使うはずです。
 

🦆

次に刀身に肉があって中心(なかご)に肉がない様な刀もあるのではないかという可能性を考えてみます。

 

まず中心と刀身は後で接着するわけではありません。

製造段階において刀身から中心まで同じ肉置で作るメリットは2つ考えられます。

 

1つ目はメリットといえるほどでもありませんが、工程数です。

中心の肉を落としたければ作った後で削らなければならないので製造工程が増えて手間が増えてしまいます。

 

2つ目は耐久性です。

実際に刀を使用したときに中心にも衝撃が行きます。同じ肉置であれば衝撃は分散できますが、もし刀身と中心で段差のようなものがあると段差部分にストレスが蓄積してしまい耐久性に問題が出る可能性が高いでしょう。

 

あえて中心の肉を薄くするメリットを挙げるとすれば製造側が使う材料が少々減るというところにあり、消費者側としてのメリットではありません。

製造業において大事な 「クレームを減らす」 「リピーターを増やす」 「品質を上げる」

以上を意識した真面目な製造者であれば、長く使える日本刀製造のために中心にも刀身同様の肉をつけるはずです。

 

以上の理由から、

刀身に肉があって中心に肉がない刀があったとして、それはほかの品より品質が低い可能性が高いと言えます。

 

時代によって肉の付き方は変わりますが、

現存の刀は基本的に中心に肉がついています。

 

 

🍗🍖🍗🍖

刀身は減っていくのは必然であるため、刀の最も原型に近い部分は中心(なかご)です。

ということは中心の肉置は、刀身だったり原型を推察する最大で唯一の手掛かりなのです。

 

この記事のまとめ!

・刀身と中心には肉が付いているよね

・刀身は減るけど中心は原型に近いはずだよね

・目立たないけど中心を見ると色々考えられて良いよね
 

です。

 

というわけで、その1「中心の仕立と肉置」でした🍖

 

次回は、その2「鑢と銘と」

 

 

 

次もぜひご拝読お願いします!

 

質問等ございましたらコメント欄かasahitoken.oshigata@gmail.comまでお気軽にどうぞ。

 

それではまた!

 

久津間

 

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