石井真理は岡田明日香の応援のためスポーツガーデンに来ていた。

 

今日は県総体が行われ、東海大会、高校総体への第1歩となる日だ。

 

明日香の出場する競技は100mバタフライ。

 

実力はすでに県内トップクラスだ。

 

高校総体出場をめざして、標準記録である1分2秒68を切る事を目指している。

 

旭が丘からの参加は明日香一人なので、家族と数名の友人だけで精一杯応援した。

 

「ファイト、ファイト、明日香!ファイト、ファイト、明日香!」

 

明日香と旭高って響きが似ていると思いながら、真理は野球部でやっているのと同じような掛け声を行った。

 

選手たちがスタート台に上ると、ぴたっと声が止まり、プール場に静寂が広がる。

 

「Ready」の掛け声で一斉に選手たちが構える。

 

「パン!」

 

静寂が声援に変わる。

 

「行け~イケイケ行け行け明日香!」

 

真理は他校の掛け声に負けないような大きな声を張り上げて応援した。

 

50m一位通過だったが、タイムは30秒ジャスト。

 

標準記録にはギリギリの数字だ。

 

「明日香頑張れ~、行けるよ~~」

 

更にボリュームを上げて声援を送る真理。

 

57秒、58秒、59秒…

 

1分を過ぎたところでゴールした。

 

タイムは…1分2秒50。

 

「やったー!!」

 

真理は明日香の家族や友人たちと抱き合って喜んだ。

 

まずは夢への第一歩を踏み出したのだ。

 

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「明日香、お疲れ!」

 

試合後、真理と明日香はいつもの店でプチ女子会を行った。

 

「ありがとう。今日は真理たちの応援のおかげで勝てたわ。ホント有難う。」

 

「じゃあ、もうすぐ野球部も三重県大会が始まるから、その時は明日香が応援してね!」

 

「OK!東海大会は野球が終わった後だし、可能な限り応援に行くよ。で、野球部の調子はどう?今年も甲子園に行けるかな?」

 

「そうね、形はほぼ決まりかけているし、選手たちの調子はいい感じ。でも、監督の調子がちょっと…」

 

「ええ!?監督、どうかしたの?」

 

「ちょっと変なのよ。昨日だって、エースの斉藤さんを160球も投げさせたし。」

 

 

「そんなの、前からあったやん。」

 

「そうやったね。でも、それ以外にも最近はノックもコーチに任せているし、時々練習にも来ないし。そんなに体調が悪いようには見えないんだけど…」

 

「何かあったんかな?」

 

「分からんけど。大会前だし、色々と情報集めで大変なんかも知れへん。」

 

「監督も大変よね。そう言えば真理、試験の結果どうやった?」

 

「ええっ〜、それ今聞く?」

 

「情報取集って言えば試験やんか。」

 

二人の話はまだまだ続いた。

 

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 この時点で小林監督は藤井医師により関節リウマチと診断されていた。

 

今は治療も進歩しているので、寛解といって薬を使いながらも普通に生活することが出来るし、上手くいけば薬なしでいけるようになるかも知れませんよと話しされた。

 

自分で事前に調べていた事と同じだ。

 

今は痛みはあまりない。

 

使っている薬が効いているのだろう。

 

最初に使う薬は効くのに少し時間がかかると聞いており、大会が近いこともあって、念の為に手を使うノックはやめておいた。

 

このまま病状が落ち着いてくれば、夏の大会には間に合うであろう。

 

この時点では、そう楽観していた。