ゴールデンハイスクールあさひのブログ。「君の事が大好きだから」 -3ページ目

僕と母の五日間戦争 2

1月25日


目が覚め身支度を済ませ、僕が向かった先



そこは競馬場だった。



母の手術代である100万円を手に入れる最後の策。



それは競馬。





狙うレースはその日のメインレース。



そこで一発当てて、100万円手に入れる。

もうそれしか方法はなかった。



買い目は決まっていた。





5番人気の馬に、単勝10万円。



オッズは10倍。



当たれば100万円。





完璧なシナリオだ。











ファンファーレが鳴り響き、その日一番の盛り上がりを見せる競馬場。



馬券を握りしめる手が震えている。



その手を胸に押しあて、天を仰ぐ。





「大丈夫、神様はきっと、僕の味方だ。」







僕と母の運命を乗せた馬が、颯爽と走り出した。



















~中略~

















負けた。



余裕で負けた。



8着だった。





終わった。





神様はいなかった。







絶望。





地べたに跪く僕。



立っていることも出来ないほどの、絶望感。



このままコンクリートに頭を叩きつけて、死んじゃおっかな。



そんな風に思い、頭を振り上げたその時だった。



突然携帯電話が鳴った。



力無い手で携帯を開くと、新着メール1件の文字。







【件名・300万円受け取って頂けませんか?】



え?



え?





続けて本文に目をやった。





【本文・初めまして、突然のメール失礼いたします。

私、某大企業の会長をしているオカダという者です。

資産は100億円以上あり、何不自由ない日々を送っております。

しかし何か満たされない。そこで私は思いました。

「みんなを幸せにしたい。」

その気持ちで私は現在不特定多数の方に、お金を差し上げています。

300万円、受け取って頂けないでしょうか?



http://megumitai.okane

↑↑

300万円受け取りはこちらまで。】





目を疑った。



しかしそこにはハッキリと書かれていた。

「300万円差し上げます。」と。



奇跡だった。



いや、必然だったのかもしれない。





「やっぱり、神様は僕の味方だったんだ。」

そんな風に思った。



添付されたURLにアクセスすると、そこにはこう記載されていた。



「※300万円受け取るには、3万円の事務手数料の振り込みが必要になります。」と。。。











安い。



安すぎる。



3万円の手数料を払うだけで、300万円貰えるなんて、、お得すぎる!



しかもちょうど3万円もってる!!





「ひゃっほーーーい‼︎」



アラレちゃんばりのスピードで、コンビニのATMへ駆け込んだ。

















~中略~

















「どうして300万円振り込まれてないんだ!!」



3万円振り込んでからもう6時間は経っている。



それなのにいくら待っても300万円振り込まれない。

それどころか、何度連絡しても返事すら返ってこない。





『どうゆうことだ??』



不安になった僕はネットで検索してみた。



【オカダ 300万円 振り込まれない】

検索。





「嘘だろ、、。」



検索結果は「詐欺」という文字で埋め尽くされていた。

どのページにも、「詐欺」の文字。





騙された。。


そりゃそうだ。


そんな都合のいい話があるわけない。


普段の僕ならきっと気づいていた。

だけど、その時の僕にはそんな判断力すらなかった。





「もう、死にたい。」



なにもする気にならなかった。



己の愚かさ、浅墓さ、情けなさに打ち拉がれ、枕を濡らしながらその日は眠りについた。



自慰すらもせずに、眠りについた。



「そういえば、射精せずに一日を終えるのは、何年ぶりだろう。」


僕は本当に愚かだ。




母の手術まであと1日。

所持金、0円。







1月26日



とうとう100万円を手に入れられないまま、手術当日を迎えてしまった。

もう無理だ。

やれる事は全部やった。

それでも100万円は手に入らなかった。

「きっとこれは運命だったんだ。」
そういい聞かせることしか出来なかった。

虚ろな瞳で朝のニュース番組をボーッと観ていると、インターホンが鳴った。

ドアの覗き穴を覗くと、そこには見覚えのある顔とデカメロン2つ。

スケベナースだった。


「斎藤さん、お母様の手術まであと1時間ですよ!いらっしゃいますか!?」
ドア越しにナースが声をかけてきた。

そうか。
そうゆうことだったのか。

今まで家に誘っても断られた理由がわかった。

そう。
ナースは今日、この時間にヤリたかったのだ。

最愛の母の手術を放棄し、欲望に身を委ね快楽に溺れる僕を、背徳感という名のムチで叩きつけたかったんだ。

『コイツの性への追求心は底知れねぇ。』

そう思った。

負けたよ。
あんたの性欲にはこの僕でもお手上げだ。

もうあんたのスキにしていいよ。

死体役でもなんでも演りきるよ。

僕はマリオネット。

あんたの世界で好きなように遊んでよ。

託すよ

ボクノカラダ。



「すいません、ちょっと待っててください。」
ドア越しにそう言い、部屋に戻った僕は、着ている服を脱ぎ捨て全裸になった。

『さて、どうしよう。』

全てを託すとはいえ、少なくとも始まりの世界観は自分で決めたかった。
あまりにも無気力では、さすがのスケベナースも幻滅してしまうはずだ。

「意思あるもの」が彼女の手により「意思のないもの」に変わった時、彼女は快感を覚え、やがてエクスタシーを迎えるのであろう。

白いブリーフを履いてみた。

『これじゃ味気ない。もっと刺激的でなくては。』

豹柄のブーメランパンツを履いてみた。

『なにかが足りない。なにかが。』

部屋中を血眼で探してみたが、その「なにか」がなかなか見つからない。

ふとある言葉を思い出した。

「答えはいつも、自分の心の中にある。」

幼い頃、僕と母を捨てて蒸発した父がよく言っていた言葉だった。
ずっと恨んできた父の言葉だが、その時ならこの言葉の意味がわかる気がした。

「父さん、やってみるよ。」

僕はゆっくりと目を閉じ、股間を握りしめた。

浅く、ゆっくりと呼吸をした。

少しずつ、雑念が振り払われていく。

徐々に僕の心と股間に一本の太い芯が通っていく。

もう少し。

もう少しだ。。。


っ!!!



「みーつけた。」

僕は体中に、針金を巻きつけた。

皮膚にめり込むくらいにグルグルと巻きつけた。


[針金スパイラル]

それが僕の出した答えだった。


さあ、準備万端だ。

看護婦さん
煮るなり焼くなりおいなり、お好きにどうぞ。

「おまたせしました。」

僕はゆっくりと、ドアを開けた。



「キャーーー‼︎」

ナースの金切り声がアパートの廊下に響き渡った。

それに全く動じずに、真っ直ぐと立つ僕と僕のムスコ。

「な、なんですかその格好は⁈」
ナースが顔を手で覆いながら言った。

「プロローグです。」

「、、プロローグ?」

「序幕ですよ。ここから僕達の世界の始まるんです。脚本演出はあなたに任せます。さぁ、お好きな色に僕を染めてください。」

「な、なにわけわからないこと言ってるんですか!」

「とにかく中へ入ってください。」
僕はナースの手を引いた。

「ちょっと、離してください!」

「いいから早くしてください。」

「ちょっと本当にやめてください!」

「いいから早くしろ。」

「イヤ!離して!」

「いつまで猫かぶってんだドスケベが‼︎‼︎‼︎」

僕はナースを強引に部屋に引きずりこんだ。

「さぁ、始めましょう。」

鍵を閉め、ゆっくりとナースに近づく針金が絡まった僕。

「やめて。。」
部屋の隅で泣きながら怯えるナース。

その姿を見て、僕はやっと自分が大きな勘違いをしていることに気づいた。

『そうか!こいつはドMだったのか!

盲点だった。
それまでの僕は「スケベ女=ドS」という勝手な固定観念を持っていた。

しかしそれは間違っていた。

現に目の前にいるナースは、僕に怯えてガクガクと震えている。
鞭も持っていないしロウソクも持っていない。

予想外の展開に戸惑ったが、僕はすぐに答えを出した。

『じゃあ俺がSになればいい。』

0.5秒の決断だった。

僕は体に巻き付いている針金をほどきとり、ブンブンと振り回した。

「や、やめて。。」
ナースが涙を流して怯えていた。

『泣くほど嬉しいのか、だったらもっと喜ばせてやる!』

僕はナースの服を強引に脱がそうとした。

「いやー!!」
抵抗するナース。

『うひょー!演技派だなぁ。負けてられねぇ!』

「おとなしくしろ!メス豚が!」
僕がそう言い、ナースを髪の毛を鷲掴みしたその瞬間だった。

「いっっ!」

突然左腕に激痛が走った。
ナースが僕の腕に噛みついてきたのだ。
肉もえぐれる程の力で。

激痛に耐えきれず、左腕をおさえながら床をのたうち回る僕。
そんな僕に何発も蹴りをいれながら、ナースは言い放った。

「気持ち悪いんだよ!変態!絶対訴えるからな!」

状況が理解出来なかった。

なぜ僕は噛みつかれたんだ?
Mじゃなかったのか?
気持ち悪い?
変態?
訴える?

まさか、、本当に嫌がっていたのか?
本当に、母さんの為に来ただけなのか?

嘘だ。嘘だ。嘘だ。

カバンを拾い上げ帰ろうとするナースの足にしがみつき、僕は言った。

「俺と、、一発ヤリたかったんじゃないのか?」

ナースは僕の顔面を蹴り上げ、呆れた表情で言った。
「は??あんたみたいな気持ち悪いフリーターとやりたいわけないでしょ。頭おかしいの?あんたみたいなやつが子供で、お母さんが可哀想よ。目覚ましなさいよ!」


頭が真っ白になった。

そう、すべては僕の勘違いだったのだ。

ナースは最初からその気なんてなかった。
ただただ母の事が心配で、家に来ただけだった。

少しずつ脳が状況を理解していく。
それと比例するように、真っ白だった頭の中が怒りという感情で埋め尽くされていく。

「ダマシタナ。ユルサナイ。。」

次の瞬間だった。
僕はドアのチェーンロックを外すのに手こずっているナースの首を、背後から針金で絞めていた。

見たこともないような動きでもがき、抵抗するナース。
無言で首を絞め続ける僕。

『ダメだ!もうやめろ!』
頭ではそうわかってはいるはずなのに、体が全く言うことを聞かない。

徐々にナースの体の力が抜けていく。

それでも僕は力を緩めなかった。
いや、緩められなかった。


ナースの首から針金をほどいたのは、どれくらい時間が経ったときだろう。
僕自身もほとんど覚えていない。

「ドスン」という鈍い音でふと我に返った僕の足元には、目を開けたまま横たわりピクリとも動かないナース。


虚ろな瞳でボーッと見下ろす僕。

ーこの人何してるの?ー

「死んでる。」

ーどうして?ー

「殺したから。」

ー誰が?ー


「僕が。」



僕は人を殺した。
僕は人を殺した。
僕は人を殺した。

、、


やだ!人殺しになりたくない!やだ!!

僕は心臓マッサージをした。

しかし爆乳が邪魔でうまく出来ない。

「クソ!なんなんだこのおっぱい!でかすぎんだよ!邪魔くせえな!」

あれほどまでにおっぱいを愛してきた僕が、まさか巨乳を邪険に扱うときが来るとは思いもしなかった。

それでも必死に乳をかき分け、無我夢中で心臓マッサージをした。

「頼む!生き返ってくれ!」


。。。。



結局、ナースが息を吹き返すことはなかった。

僕は、人を殺してしまった。

どうしてこんな事になってしまったんだろう。
殺すつもりなんてなかった。
なんなら僕が死体役をするつもりだった。
でも、死体になったのはナースの方だった。


「ごめんなさい。」

僕は死体を抱き締めた。

『こんなに冷たくなるんだ。』

ナースの胸に耳を押し当ててみた。

『なんにも聞こえない。』
鼓動も、脈も、呼吸も。

虚無。

永遠に続く静寂。

それが、死というもの。

その静寂に身を委ねる僕。

なぜだかすごく心地が良かった。
そこには感情もなにも無いはずなのに、温かくて優しい気持ちに包まれてる気がした。

『そうか、僕もなにも無いからか。』
お金も、家族も、未来も。

ずっとこの静寂が続けばいい。
そしていつか僕も、君と同じように冷たくなって、無の世界に行くんだ。

しかしその静寂は、突然鳴り響いたインターホンで破られた。

「すいませーん。警察の者ですが、女性の悲鳴を聞いたと通報が入りました。いらっしゃいますかー?」
警察だった。
あれだけ騒がれたんだ、アパートの誰かが通報したのだろう。
しかし僕は動じなかった。

もういい。
もう疲れた。
もう僕は終わったんだ。
もうどうなったっていい。

もう僕には、なにも無いから。

「今、、開けます。」
ゆっくりと立ち上がりながらそう言い、ドアノブに手をかけたその時だった。

「あなたにはお母さんがいるわ。」

死んだはずのナースの声が聞こえた。
聞こえたというより僕の心に直接響いたと言った方がいいかもしれない。
信じられないことなのだが、僕は不思議とその事に疑問を持たなかった。

「もう遅いよ。僕も母さんも死ぬんだ。」

「死ぬのは私だけで十分よ。お母さんに罪はないわ。」

「でも、お金ないし。もう無理だよ。」

「お金ならあるわ。私の死を無駄にしないで。」

「お金ならあるって、、どこにあるんだよ。」
しかしナースの声は返ってこなかった。

ドンドンとドアが鳴った。
「斎藤さーん!開けてくださーい!斎藤さーん!」
警察がドアノブをカチャカチャと回しながら言った。

「なあ!どこにあるんだよ!答えてくれよ!」
ナースの肩を揺すりながら声を荒げたが返事は返ってこない。

「斎藤さーん!開けますよ!いいですね!? 。。。管理人さん、お願いします。」
ドアの向こうから、合い鍵を取り出す微かな音が聞こえた。

『もうダメだ。終わった。』
そう諦めかけた時だった、横たわるナースの目線の先に、あるものが見えた。

「これだ!」

僕はナースのカバンから財布を抜き取り、ロングコートを羽織ってベランダから飛び降りた。
足に激痛が走ったが、そんなことはお構いなしで一心不乱に駆け向けた。

「母さん、絶対守る。」

僕が向かった先、そこは病院ではなく、銀行だった。
そう、ナースの銀行口座から100万円を引き出すためだ。

駅前の銀行に入った。
皆が裸足の僕を怪訝そうに見ていたが、そんなことを気にしている場合じゃない。
今頃警察は、僕を追っているはずだ。

僕は乱れる呼吸を整え、ナースの財布からキャッシュカードを抜き出し、ATMにそっと挿れた。

『これでやっと、母さんを救える。』

しかしその安堵は一瞬で破られた。


[暗証番号を入力してください。]

忘れていた。
キャッシュカードでお金を下ろすには4桁の暗証番号が必要なことを。
そして、三回連続で暗証番号を間違えると、その日はカードを利用できなくなることを。

「ファック!!」

僕の怒声が銀行に響き渡る。

冷静になれ、大丈夫、大丈夫だ。
チャンスは3回ある。

ナースの誕生日を入力してみた。

1125

失敗。



ナースの電話番号の下4桁を入力してみた。

2736

失敗。

「ファーーック!!」

次もし間違えたら、今度こそ本当に終わりだ。
僕も、母さんも。


『なにか手がかりがあるはずだ。』


目を閉じナースの事を想像した。


少しずつ、頭の中でナースの輪郭が浮かび上がっていく。


ボイン

ボインボイン

ボインボインボインボイン




っっ!

これだ!

おっぱいだ!!

震える指先で[0281]と入力した。





[お引き出し金額を入力いしてください。]


「ビンゴ!」

奇跡だった。
僕は一万分の一を見事探り当てたのだ。

ありがとう、ナース。
ありがとう、おっぱい。

ふと時計に目をやると、時刻は10時50分。
母さんの手術まであと10分。
ここから病院まで走っても20分はかかる。

『このままじゃ間に合わねえ。。。』

僕は自転車に乗ってる老人の首根っこを掴み引きずり下ろし、自転車を奪い取った。

罪悪感は全くなかった。

「どうせもう人殺してるし、これくらいいいや。」
最強だった。

商店街を全力疾走した。
たらたら歩いてる邪魔くさい子供や自分より弱そうな老人は、容赦なく蹴り飛ばしがら駆け抜けた。

風が背中を押している。

流れる街の風景が映画のフィルムのようだった。

この5日間の出来事がフィルムに映し出され、走馬灯のように流れていく。
いや、海物語の魚群のように流れていく。

病院が見えてきた。

「もうすぐ、もうすぐだ! 」












病室には母と担当医がいた。

間に合った。

これで母さんは助かる。

「斎藤さん、いままでなにしてたんですか!?」
そう言う医者に黙って一礼し、ベッドに横になる母に100万円の入った封筒を渡す僕。


「遅くなって、ごめん。」

その一言だけを残し、僕は病院を後にした。










~親愛なる母さんへ~

お元気ですか?
手術は成功したと聞きました。
本当に本当に良かった。
母さんが元気で暮らしているだけで、僕は幸せだよ。
僕は元気です。
こっちの生活にも大分慣れました。
イロイロ不自由はあるけど、規則正しくて意外と僕に合ってるかも。(笑
母さん、今まで育ててくれて、ありがとう。
そして、こんな息子でごめんなさい。
というか、もう息子だとも思ってないよね?
そう思われても構わない。

だって僕は、殺人犯なんだもの。

でも母さん、一つだけ忘れないで欲しいことがあるんだ。




「こうなったのは全部お前のせいだ。」











刑務所からの投稿






僕と母の五日間戦争

僕と母の、固い絆が巻き起こす、ハートウォーミングなお話です。





【僕と母の5日間戦争】




1月21日。



いつものようにコンビニでバイトをしていると
知らない番号から電話がかかってきた。

僕は店長の目を盗んで電話に出た。


「もしもし。」

「もしもし、斎藤旭さんのお電話でよろしいですか?」

「はい、そうですが、、。」

「お母様が倒れました。」

「えっ?ちょっと待って下さい、どうゆうことですか?」

「私、矢島総合病院で医師をしております田中と申します。先ほどお母様が病院に運ばれました。」

「母は無事なんですか?!」

「はい。今は意識を戻していますが、油断はできない状況です。」

「わかりました。バイトが終わったら、すぐ病院に行きます!」


それは突然の知らせだった。
母が倒れた。

僕が幼い頃離婚し、女手一つで育ててくれた母が倒れた。
世界で一番大切な母が。


今すぐにでも病院に行きたかったが、まだバイトの定時まで3時間あった。

店長に事情を伝えて早上がりすることもできたが、その日はおでんセールだった。
きっと早退したら、後でネチネチ嫌みを言われるから定時まで働くことにした。

「くそ!なんでこんな時に限って混むんだ!なんでおでんセールなんだよ!はんぺんがお一つ、大根がお一つじゃねぇよ!」

3時間が永遠にも感じた。


どうにか3時間働いた僕は、いつものように倉庫からタバコを2箱パクってバイト先を飛び出た。


タバコを吹かしながらiPodを聴いて、折りたたみ自転車で病院に向かった。

「母さん、待ってろよ。」

数分で病院に到着した。

タバコを植木にポイ捨てし、一度深呼吸をして病院に入る僕。

「どんな病気だろうが、僕が母さんを守る。母さんには僕しかいない。」


受付に事情を説明するとすぐに病室に案内された。

案内してくれたナースがなかなかのグラマラスバディだった。

「こちらです。」と小走りで病室に向かうナースのご自慢のデカメロンが、ボインボインとダイナミックかつエロティックに揺れる様を見て

『うひょひょ!得した!』

と不謹慎な感情が湧き出したのはここだけの話。


病室には母と担当医がいた。

どうやら母の意識はしっかりしているようで、ひとまず安心した僕に医者が激しい剣幕で言った

「どうしてもっと早く来てくれなかったんですか⁈」

「すいません。バイト先がおでんセールで忙しくて。」

「何言ってるんですか!お母さんとおでんどっちが大事なんですか!」

「いや、、でも電話で意識取り戻してるって言ってたのでちょっとくらい大丈夫かなって。」

「そうゆう問題じゃないですよ!お母さんには、あなたしかいないんですよ!」

「いやでも、、、、」

なにも言い返せなかった僕は



医者を軽く睨みつけた。



『くそ医者が。お前は黙って治療だけしてりゃいいんだよ。』と言いたかったが
横にいるデカメロンナースに嫌われたくなかったので、とりあえず謝った。


「自分が浅はかでした。本当にすいません。母さん、本当にごめん。」


「まぁいいじゃないですか先生。大事は免れたわけですし、こうしていま息子さんはお母さんの隣にいるんですから。」
ナースが優しく言った。

まさに白衣の天使だと思ったと同時に

『さてはこの女、俺に気があるのか?確かによく考えてみれば、さっきもやたら爆乳を強調してきたし、普通わざわざ病室まで一緒にこないだろう、これは、、、イケるかもしれねぇ!』
と不謹慎な希望が溢れ出てきたのはここだけの話。



医者の話によれば

母は◯◯という病気らしい。

手術をすれば、ほぼ治る病気ということで本当に安心した。

「手術は5日後を予定しています。」

「はい、よろしくお願いします。ちなみに、治療費はどれくらいですか?」

「入院費や手術代など諸々で、100万円ほどです。」

「100万⁈」


ない。。。


そんな金ない。

母さんの貯金と僕の貯金を合わせても20万程度しかない。


『なんでいい歳して医療保険入ってないんだよババア。』
と、一瞬思ったがそんな事を考えても仕方ない。

母さんを救いたい。
僕がどうにかしなければ。
いや、絶対にどうにかする。

女手一つで育ててくれた母さんの為だ

100万円、必ず手に入れてみせる。


僕は、母さんを守る。





「わかりました。100万円用意します。」



この一言が

僕の人生を大きく左右することを

この時の僕はまだ知る由もなかった。




「先生。母を、、よろしくお願いします。」
僕は医者の目を真っ直ぐと見つめながら、握手をした。


「看護婦さんも、よろしくお願いします。」
ナースのデカメロンをがっつり舐め回すように見ながら、両手でねっとりと握手をした。

握手ついでに、メルアドを書いたメモをさりげなく渡し
「母の事について、相談とかしたいんで、メールください」と一言、耳元でささやいて、病室を出た。

その時
ナースが戸惑いながらも一瞬、まんざらでもなさそうな表情を浮かべたのを僕は見逃さなかった。

『やっぱりこの女、とんでもないスケベ女だ。男に飢えてやがる。こりゃ確実に、、、イケる!!』
と不謹慎な確信を得たのはここだけの話。



病院を後にした僕は、TSUTAYAでDVDを数本借りて、家に帰った。

じっくりと考えたかった。


『100万円手に入れるには、どうすればいいのか?』

『そもそも母の病気は、本当に治るのか?』

『あのナースを、どうやってベットインまで持ち込もうか?』

『あのナースは、どんなプレイを堪能させてくれるのだろうか?』

『もしや、お医者さんごっこプレイか⁈』

『その時の僕の配役は、医者?患者?それとも、清掃員のおじちゃん?』

『ちょっと待て、そんなありきたりな設定のはずがない。なにせあの女は筋金入りのドスケベ女だ。となると、、まさか、、、死体役⁈』

『だとしたら厄介だ。もし僕がナースのやらしい舌使いに我慢できず、少しでも声を漏らしたりしたら、「あら?死体なのに声が出るわねぇ。おかしいわねぇ。。。おだまり!」と、鞭を打ちつけられるんじゃないか⁇』


『鞭で叩かれ、僕は悲鳴をあげる。その声でまた女王様はお怒りになり、鞭を打ち付ける。鞭、悲鳴、鞭、悲鳴、鞭、悲鳴、、、それが延々と繰り返される。その先には、、なにが待っている?』

『エクスタシー? それとも、、死⁈』

『どっちだ、、、どっちなんだ‼︎‼︎』



いくら考えても答えはでなかった。


「母を救いたい。」
その気持ちと陰部だけが、どんどん大きくなって僕を苦しめた。



1月22日


目が覚め、ベランダでタバコを吸う。

それが僕の一日の始まりだ。

照りつける朝陽が眩しい。

空気が冷たくて、それでいて澄んでいる。

昨日の出来事は全て夢だったのではないかと思うほど、爽やかな朝だった。


しかし部屋に戻るとそこには
何本ものアダルトDVD(ナース系)と、使用済みティッシュが散らかっていた。

「夢なわけねぇか。」とため息混じりで現実に戻された。


その日はお昼からバイトだった。

しかし、もうバイトをするつもりはなかった。
何故なら100万円手に入れなければいけないからだ。
どんなにコンビニで働いても、5日間で100万は稼げない。

僕はバイト先に足を運び、店長に事情を説明して辞めることを伝えた。

何度も引きとめられたが、母のために半ば強引に辞めた。

「本当にすいません。今までお世話になりました。」
そう一礼し、倉庫から自分の制服とタバコ1カートンをカバンに詰め込み、足早にバイト先を後にした。



さあ、これからだ。

100万円、なにがなんでも手にいれて見せる。

でも、どうすればいいんだ、、、、。


ふとあることを思い出した。

以前パチンコをした際、一日で25万円勝ったことがある。

もしそれが5日間続けば、25万×5日だから、、、120万円。


120万!?


母を救えるどころか、20万円も手元に残る。


これだ。
これしかない。

これで母を救える!

余った金でハワイにも行ける!

ワイハーでパツキンのチャンネーとヤレルー‼︎


僕は胸を踊らせて、パチンコ屋に向かった。






~中略~








7万円負けた。

普通に負けた。


艶やかな街のイルミネーション、行き交う人の幸せそうな笑顔、賑やかな大学生集団

すべてを破壊したいと心から思った。


凍てつく空気が、僕の身も心も冷やした。


「クソが。死ねっ。てめーらなんてどうせ何も出来ねぇんだよ。俺はババアの手術代が必要なんだよボケ。てめーらとはちげえんだよ。」
路地裏を一人でぶつぶつと呟きながら、帰宅した。


「どうして僕だけ、こんな目に。。」

自分だけが不幸に感じた。

昔から僕は、悲観的な性格だった。

それが自分のダメなところだ。

凹んでいたって仕方がない。

母さんは辛い時も、笑顔を忘れない人だった。

そうだ。

辛い時こそボジティブシンキングだ!




「明日は絶対パチンコで勝つ‼︎」


希望とダッチワイフを抱いて、眠りについた。





1月23日

朝目覚め、ふと携帯電話を見ると
【新着メール1件】の文字。


普段メールなんてほぼ誰からもこない僕は、確信していた。

「あのスケベナースからだ!」

嫌なことがあった分必ずいいこともあると言うが、本当にそうだと思った。


【メール遅くなってすいません。矢島総合病院の看護師をしております、深津と申します。昨日は病院に来られなかったみたいですが、お忙しかったのでしょうか?お母様が少し淋しそうにされてました。今日お時間あるようでしたら、お母様にあってあげてください。】


掛かった。

見事に掛かった。

やっぱりあの女は欲求不満のドスケベだ。

一見、患者を心配するナースの健全なメールだが、僕にはお見通しだった。

お母様が淋しがっていた?
それは嘘だ。

本当に淋しがっているのは、この女だ。

この女は、欲してる。
僕を。。


【メールありがとうございます!昨日は病院行けなくてすいません。でも、母が無事で少し安心しました。今日はお見舞いに行きます。では、失礼します。】

本当は今すぐにでも家に誘って、ベッドで一戦交えたかったが、ここはあえてがっつかない事にした。

恐らくナースは、僕が自分に性的な好意を寄せている事に気付いてるはず。

そこであえて引く。

するとナースはこう思う。

『え?私には興味ないの?本当にお母さんが心配でメアド渡してきただけなの?なによ!こっちは勝負下着まで着てるってのに!もう!アタシったら一人で舞い上がっちゃって、バカみたい!』
悔しそうにシーツを噛み締めていたことだろう。


ロックオン。


ここまで来たらもう抱けたも同然。

あとは絶妙なタイミングで、、引き金を引くだけ。




「さぁーて、今日は爆発させるぞー。」

鼻歌交じりでパチンコ屋に向かった。








~中略~







9万負けた。
ストレートで負けた。

「死ね。」
もうこの言葉しかでなかった。

繁華街をふらふらとおぼつかない足取りで彷徨った。

寒かった。

身も心も財布の中身も、寒かった。

あったかい缶コーヒーを飲んでみたが、気休めにもならなかった。


「クソが‼︎」

僕は路上で寝ているホームレスに空き缶を投げつけた。

空き缶はホームレスの背中に当たった。


「なにしやがんだガキ!」
ホームレスが近づいてきた。

「うっせーんだよ。ゴミが。」
僕が無表情でそう言い放つと、ホームレスが胸ぐらを掴んできた。

「触んじゃねぇ!!!」
僕はホームレスの腹部に思い切りひざ蹴りを入れた。


お腹を押さえ、地べたにうずくまるホームレス。

その背中に油性マジックで「粗大ゴミ」と大きく書いて、家路についた。



家に帰り携帯を開くとメールが一件届いていた。

【夜分に失礼します。今日も病院に来られなかったみたいですが、お忙しかったのでしょうか?明日お時間ありましたら、お見舞いに行ってあげてください。】
スケベナースからだった。

この女はどれだけ僕を求めてるんだと、少し呆れた。
しかし僕もその日は女を欲していた。
パチンコで負けた日は無性に女を抱きたくなるものだ。
きっと傷ついた心を修復するのは、女しかないからだろう。

『もう少し泳がせたかったけど、、仕方ないか。』

僕はナースを家に誘うことにした。

【こんばんは。今日は色々ありまして、病院いけませんでした。突然なんですが、今からウチに来ませんか?美味しいハーブティーが手に入ったので、よかったら一緒に飲みませんか?】

本当ならば「今から一発ヤらねぇ?」の一言で済む話なのだが、いくらドスケベといえどナースにも多少の羞恥心があるだろうから、「ハーブティー飲みませんか?」という体でメールを送った。
ハーブティーなんてうちには無い、でもそんなものは必要ない。
なぜなら相手はドが付くスケベ女、うちに来たら間髪入れずに事を始めるだろう。

「さてと、体力つけとかなくちゃ。」
僕はリブ肉をペロリと平らげ、シャワーを浴びた。

竿、皮、玉、筋、尻穴を重点的にきめ細やかな泡で丁寧に洗い、最後に玉を冷水でキュッと引き締め、いっちょ上がり。

風呂を上がるとメールが来ていた。

【返信ありがとうございます。ハーブティーですか!素敵ですね!でも、今日はこれから朝まで勤務なんで、申し訳ありませんが行けません。。。】

断られた。
夜勤とは想定外だった。
さすがのスケベナースも仕事を放棄してまでは来ないかと、諦めることにした。
しかし僕の上がりきったボルテージは収まることはなかった。

「仕方ない。あいつでいいか。」


【いまからウチこない?】

僕は元カノにメールを送った。
彼女とは半年前に別れたが、ちょくちょく会う関係だった。

すぐに返事が来た。

【なんで?】

【話したいことあるから。】

【じゃあ電話でよくない?てかもう化粧落としちゃったし。】

【電話じゃダメ。別にすっぴんでもいいじゃん。】

【てか、どうせヤリたいだけでしょ?】

バレてた。
女っていうのは勘のいい生き物だ。

【ちげーよ。普通に話したいだけだよ。】

【てかさ、うちら別れたんだからさ、もう会うのとか辞めよう。さよなら。】


なにもかもが上手くいかなかった。

今まで散々こねくりあったのに、急に良い子ぶってくる、女とは本当に都合のいい生き物。

しかし僕は諦めなかった。

『こうなったら、あの手を使うしかない。』
少し心は痛んだが、切り札を使うことにした。


【実は今、母ちゃんが倒れて入院してるんだ。すげー不安でさ。お前しか相談する人いなくて。でももう別れたんだし、お前の優しさに頼ってちゃだめだよな。ごめん。】




30分程で元カノは家に来た。


女ってのは偽善の塊だ。
絶対に自分だけは悪者になりたくない生き物。

だからこっちもその偽善に身を委ねる。


夜が明けるまで何度も何度も元カノの尻を叩き上げた。





1月24日

香ばしい匂いとフライパンの音で、僕は目を覚ました。

どうやら元カノが朝食を作っているらしい。


僕の為にやってくれていることなのだが、無性に腹が立った。


『彼女ヅラしやがって。』


正直、プレイが終わった時点でもう元カノには帰ってもらいたかった。
しかし流石に事が終わってすぐに「帰って」とは言えないので、そのまま一緒に眠りについたのだが、やっぱり好きでもない女と寝るのは気分が萎える。
それだけならまだしも、したり顔で朝食まで作られた日には虫唾が走る。

「あっ起きた?おはよー。もうすぐ朝ごはん出来るからねっ。」


「てかなに勝手にうちの台所使ってんの?」

「え⁇えっあっごめんね。」

「いや、なんで使ったか聞いてんだよ。」

「えっ、いや、、だってお母さん入院してるから、たまにはちゃんとしたもの食べた方がいいかなって。。」

「いい人ぶってんじゃねーよ。」

「別にいい人ぶってないよ!」

「じゃあなんで勝手に朝飯作ってんだよ。」

「それは、、、旭が心配だからだよ!私に出来ることならやってあげたいって思っただけだよ!」

「じゃあ金くれよ。」

「、、え?」

「心配なんだろ?出来ることならやってくれるんだろ? 金くれよ。貯金あるだろ?」

「え、、でもそれは、、。」

「くれねーの?」

「お金は、、あげられないよ。」

「だったらこんな事すんなや。結局お前が一人で優しい自分に浸ってるだけじゃねーかボケ。」

「違うもん!てかなによ!こっちはあんたのため思ってやってあげてるのに!」

「黙れや‼︎」

僕は元カノの頬を引っ叩いた。

頬を抑える元カノの髪の毛を掴み、僕は言った。

「てめぇ昨日メールでもう別れたから会わねーっつったよな?なのに結局会ってヤッて飯まで作ってんじゃねーか!てめぇは薄っぺらなんだよ。中身も胸もな!」

呆然とする元カノを、力任せに部屋から引きずり出した。

アパートの廊下にひざまずく元カノに、靴とバッグと出来たてのスクランブルエッグを投げつけ、ドアを閉めた。


ドアの向こうから元カノのすすり泣く声が微かに聞こえてきた。

ドアの郵便ポストをパカッと開け、無言でその姿を覗き見る僕。

それに気づいた元カノが、泣きながらドアに顔を近づけ言ってきた。

「ねぇ!どうしてこんな酷いことするのよ?!」


僕はニコッと笑って
「そうゆう風に悲劇のヒロインぶる所が嫌いだから。」
と言い、ツバを吐きかけた。

半狂乱で号泣する元カノ。


僕は限りなく優しい口調で
「ずーっとそこで泣いてていいよ。永遠に泣いてていいからね。」
と言い、ポストを閉じた。


その後も元カノはドアの前で泣いていたが、10分ほど経ったら普通に帰った。


泣き、喚き、存分に被害者感を味わい、自分の気が済んだら、また平然といつも通りの日々を送る。

全部自分のタイミング。

結局みんな自分が一番大切なんだ。と心から思った。



だけど、僕は違う。

僕には母さんがいる。


僕にとって世界で一番大切な人は
自分ではなく


母さんなんだ。



「母さんごめん。ちょっと寄り道しちゃったけど、必ず100万円手に入れるから。」



少ない残金を握りしめ、パチンコ屋に向かった。








~中略~







20万勝った。
確変が止まらなかった。
笑いも止まらなかった。

賑わう繁華街も、昨日までとは全く違って見えた。

全てが僕を祝福しているように見えた。

「俺は最強だーー!」
心の中で叫びながら、帰宅した。

ベッドに飛び込み、鼻歌交じりに携帯を開く僕。


【こんばんわっス!今日も忙しくて病院いけませんでした。突然ですが、今からウチに来ませんか? 美味しいベイクドチーズケーキが手に入ったので、是非(*^◯^*)】

前日に続いてナースを誘った。
もちろんベイクドチーズケーキなんてウチにはないが。


すぐに返事が来た。

【すいません、今日は予定があっていけません。明日はお見舞いいってあげてください。失礼します。】


また断られた。
二日連続で断られるとは心外だったが、その日の僕は全くもって平然としていた。

何故なら金があるから。



「三丁目のコーポ国立の202号室です。はい、よろしくお願いします。」

僕はデリヘルを呼んだ。

もちろん、オプションでナースのコスプレを付けて。

追加サービスに追加サービスを重ね、7万円分のアブノーマルな快楽を嗜み、その日は静かに眠りについた。

それはそれは安らかな眠りだった。

『明日、絶対に100万円手に入れられる。』
そんな自信と策略が僕にはあったからだ。



母の手術まであと2日。

所持金13万円。









つづく

僕の初体験。

久しぶりのブログ更新です。

暇だから、一年前に書いたブログの続きを書きました。






↓↓↓





今回は僕の初体験を赤裸々に書き綴ろうと思います。



かなり長いけど、楽しいから読んでね。









『ご飯』




17才の冬休みのある日。


僕の初体験はやってきた。





「じゃあパパとママ温泉行ってくるから、留守番頼むわね。」


両親が旅行に出かけると言い出した。




「あれ、今日だっけ?」



「前から言ってたでしょ。じゃあ、頼むわね」




もちろん両親がその日旅行に出かける事を忘れてなんかいない。


自営業の為、普段必ず家に両親がいる僕にとって、この日はチャンスでしかなかった。


しかし怪しまれてはいけない。

あくまで自然に振舞った。



「あれ、そうだっけ?じゃ、いってらっしゃい。ゆっくりしてきてね。」


両親を見送ったのも束の間

僕は自室に走って向かった。



呼吸が乱れていた。


走って疲れたのでなく、興奮していたからだ。



これから始まる事を想像しただけで、僕は白目をむいてしまいそうだった。




ベッドの下の引出しを開けた。


そこには無数のエロ本。


そのエロ本達をがむしゃらにかきわけ、僕は奥の方からあるものをそっと取り出した。



コシヒカリ5kg。



この日の為にこっそり買っておいたコシヒカリ。




僕はコシヒカリをまるで赤ん坊の様に優しく抱きかかえ、台所へ向かった。





「さぁ、はじめるよ。」

そっと一言つぶやき、僕は米袋を開けた。


開けたというより、脱がしたと言った方がいいかもしれない。


初々しくも凛々しいコシヒカリの生米を見ると、僕はもう理性を保てなかった。


だめだ、もっと慎重にならなきゃ!


そう頭ではわかっているものの、身体が言う事を聞かない。




「んあぁっ」

声にならない声が漏れたと同時に




僕は米を研いでいた。



シャカシャカシャカシャカと。



無我夢中で米を研いだ。


優しく、それでいて激しく米を研いだ。

時には焦らしたりもした。



ぬかが落ち、どんどん綺麗になっていくコシヒカリを見ると

なんだか少し淋しくなった。



研いだのは僕なのに、何故かコシヒカリが遠い存在になってしまう気がした。





僕は研ぎ汁を飲んだ。



とても飲めた味じゃなかったが、それが17才の僕にとっては、精一杯の愛情表現だったのだろう。


若気の至りとしか言いようがない。




ひたすら

研いでは
研ぎ汁で喉を潤わし、
研いでは潤わしを繰り返した。


どれくらい研いだであろうか、ふと外に目をやると

もう夕方になっていた。


夕焼けが反射して
茜色に染まった研ぎ汁の幻想的な光景を、僕は今でもはっきりと覚えている。



その幻想的な研ぎ汁を飲み干し、僕は名残惜しそうにつぶやいた。







「炊くかぁ。」





しかしあれほどまで愛情込めて研いだ米を、そう簡単には炊けなかった。


ふとある言葉を思い出した。

「可愛い子には旅をさせよ。」


そうだ。

そうなんだ!



「可愛い米はふっくら炊けよ。」



とうとう決心のついた僕は

一粒一粒言葉をかけながら、炊飯器に米を入れた。

卒業生をおくる教師のように。



「痛いと思うけど、俺を信じて」そう最後の一粒に言い、とうとう全ての生米達を炊飯器に入れた。



蓋を閉じる前に最後に生米達に叫んだ。

明るく笑顔で叫んだ。


「ずっと忘れないから!じゃあな!」


微かに揺れる水面に映る僕の顔は、泣き顔に見えた。

いや、泣いていたのだろう。

仕方ない、17才とはいえやはり子供だ。




僕は蓋を閉じた。



これから米達は炊飯器という閉鎖された鉄の塀に囲まれ、灼熱地獄に耐えなければならない。

しかしこれは愛するがゆえの事。


僕たちは大人への第一歩を共に踏み出すんだ。



「・・押すよ。」

震える手で

スイッチを押した。





炊きこまれる米達。


グツグツと悲鳴をあげる米達を心配する気持ちと同時に

興奮している僕がいた。



僕の為にこんなに辛い思いをしている。


僕だけの為に。





「どうだい、熱いかい?もっともっと炊き込んであげようか?」

何度も言葉責めをした。



炊飯器から吹き上がる湯気が、僕の興奮を更にかきたてた。



言葉責めでは物足りなくなった僕は




湯気を吸った。



吸い続けた。


吸ってはむせ返り、吸ってはむせ返り。


苦しい。だけど、なんだろう。

この快感。




やがて意識が朦朧としてきた。


それでも炊飯器にしがみついて、湯気を吸い続けた。



薄らいでいく意識の中、湯気の向こうに見えた気がした。


温泉に浸かる両親の姿が。




「パパ、ママ。僕・・大人になるね。」




ブラックアウト。



僕は気を失った。












ピピーピピーピピー



炊飯器から流れる電子音で、僕は目を覚ました。



・・・炊けた。

炊き上げたんだ!

誰の手も借りず、僕一人の力で‼


「うおおー‼」
僕は雄叫びをあげながら炊飯器を高々と掲げた。

ふと鏡に目をやった。

僕の瞳は、数時間前とは大違いだった。

少年の目は、漢の目へと変貌を遂げていた。


今すぐにでも炊き上がった米を見たかったが、炊飯器は開けなかった。

何故なら炊き上がった米は、数分蒸らさなければいけないからだ。


「米は蒸らされ、俺は焦らされるってか。なかなか粋じゃねえか。」

そこには大人な僕がいた。



米を蒸らす間、僕はシャワーを浴びる事にした。
丁寧に、丹念に、カラダを洗った。

出来るだけ、プレーンな状態の僕で初体験を迎えたかった。

最後に粗塩をカラダに擦り込み、風呂場を出た。



全裸で炊飯器の前に仁王立ちする僕。


「さぁ、いよいよだ。」


目を閉じ深呼吸し、僕は炊飯器を開けた。




もわ~ん

湯気が部屋中に充満した。
まるで霧がかる森のようだった。

そこに微動だもせず全裸で仁王立ちする漢、斎藤旭。


徐々に湯気が引いていく。

この湯気が消えた時、目の前に現れる米はもう以前の米とは違う。

角は無くなり丸みをおびて、固さは無くなり、ふっくらとしている事だろう。

でも大丈夫。


どんな君だって受け入れる。



だって君を炊いたのは、僕だから。








「久しぶり。また、会えたね。」



米達はいやらしいほどふっくらと炊き上がっていた。



美しい。


白くて
柔らかで
艶やかで

美しい。




僕の勝手な欲求で炊き上げられ
ご飯になった米達。



愛とは、相手の為なら己の犠牲を厭わない事だと

米達は教えてくれた。




「今度は僕の番だ。」




ご飯が僕に望む事
それは

残さず美味しく食べる事。




「いただきます。」



僕は手づかみでご飯を食べた。

貪るように食べた。




「美味い・・美味い‼」

ご飯を噛みしめる度、様々な思い出が駆け巡った。


少ないお小遣いを切り詰め貯めたお金を握りしめ、隣町までコシヒカリを買いに行った事・・

ベッドに隠したコシヒカリが親にばれないかと、毎日息が詰まる思いで過ごした日々・・

お腹がたっぷんたっぷんになるまで研ぎ汁を飲んだ事・・

泣きべそをかきながら炊飯器のスイッチを押した事・・

肺炎になるのも恐れず吹き上がる湯気を吸った事・・


どんな辛い思い出も、キラキラと輝いていた。





僕とご飯が一つになっていく。



食べれば食べる程、興奮している僕がいた。





「もうだめだ、我慢出来ない!」



僕はレゲエミュージックを大音量でかけた。



全裸で腰を降りながら、無我夢中でご飯を食べた。



興奮は絶頂を迎えていた。


「このスケベご飯が!海苔で握ってやろうか?カレーぶっかけてやろうか?それとも炒飯にしてやろうか?!」

乱暴な言葉をご飯にぶつけた。



それだけでは満足できなくなった僕は



ご飯をひっぱたいた。

ペッチンペッチンと。

イケナイ事だとはわかっていても、17才の僕はその欲望に抗う事は出来なかった。


叩く度、ご飯がモチモチしてくる。



「このままお餅にしてやる‼」


ペッチン

ペッチン

ペッチン

ペッチン・・・・

















「お米」が「ご飯」になった時

僕は

「少年」から「大人」になりました。





「ご飯」が「お餅」になった時


僕は


「大人」から「変態」になりました。












公衆電話からの投稿