おはようございます。いろはです。
「芸術は長く、人生は短し」
本日のブログのタイトルですが、
誰の言葉かご存知ですか?
原文はラテン語の「Ars longa, vita brevis.」です。
今から約2400年前の古代ギリシャの医者、
ヒポクラテスの残した名言です。
『医術を修業するには長い年月を必要とするけども人生は短いから怠らずに勉強せよ』、という若い医学生を激励した言葉が元とされています。
それから長い時代を経て、医術が芸術へと訳が変化し、今は『人間の命は短いけれども、優れた芸術作品は作者の死後も残る』という意味の言葉として知られています。
この言葉を座右の銘として愛した音楽家がいました。坂本龍一(1953-2023)です。
先日メトロ劇場へ『Ryuichi Sakamoto|Opus』を観に行きました。
映像は全編モノクロ。出演は坂本龍一とグランドピアノのみのコンサート映画です。
プレイリストは、これまでの音楽家人生の軌跡を辿る代表曲20曲で構成されています。
映画の収録は2022年9月、NHK509スタジオで8日間に渡り行われたそうです。
2023年3月に直腸がんで亡くなった坂本にとって、今作が最初で最後のコンサート映画となっています。
最後の力を振り絞りながらピアノを弾く坂本の音は、まさに命を削るような音でした。
慈しむように大切にゆっくりとした動きで音を奏でる坂本の指は、大病を抱えている人間のものとは思えないくらい美しかったです。
映画のラスト、坂本はピアノの前から姿を消します。けれど、依然としてピアノからは音がする。不思議な力で鍵盤が沈む。
無人の演奏が数分間続きます。
まだそこに本人が座って弾いているのではと錯覚させられるも、やっぱり何処にも坂本の姿はありません。
そしてエンドロールのあと、スクリーンに映し出されたのは、
「Ars long, vita brevis.」
坂本が最も大切にしていた言葉でした。
最後の無人演奏は、まさにこの言葉を体現した坂本龍一の生き様を表していたのかもしれません。
作家本人がこの世を去ろうとも、彼の音楽は歴史に刻まれ、この先も人々の中に生き続けるでしょう。
私は、坂本龍一のように優れた作品を世に残せるような大それた存在ではありませんが、彼の生き様は心から憧れるものであり、私も「Ars longa, vita brevis.」を心に銘し、これからの人生の中で出会う一つひとつと向き合って生きていきたいと思いました。