
日野山(越前富士)を仰ぐ金色に輝く紫式部像

紫式部公園から日野山(越前富士)を望む
藤壺は若宮を抱いたまま、青ざめて震えている。
「この赤ん坊は、だれにも見せられない。帝にも源氏の君にも女房たちにも……」
似ている、余りにも似ている。
驚くほど、顔形がそっくりだ。
だれが見ても、「源氏に生き写し」と思うだろう。
源氏との「不義の子」を、「帝の子」といつわってきた天罰が下ったのだ。
藤壺は恐怖に怯え、良心の呵責に苦しんだ。
産み月の遅れもあり、「若宮の本当の父親は、もしや?」と、弘徽殿女御の周辺が騒ぎ立てるに違いないと思いいたって慄然とした。
それでも、藤壺は四月に参内(さんだい)する。
若宮は、日々成長して寝返りを打つようになった。
ある日、いつものように源氏が飛香舎(ひぎょうしゃ)に呼ばれ、御簾(みす)を隔てて琴を弾いていると、帝が大事そうに若宮を抱いて現われた。
「わたしは大勢の皇子(みこ)に恵まれているが、幼いころお前だけを抱いていたからだろう。若宮を見ていると、あの頃のお前の様子をしきりに思いだす。不思議なほど、あの頃のお前に若宮は似ているのだ」
源氏は激しく動揺して顔面蒼白になり、琴を奏でていた指が硬直した。
御簾の向こうでは、藤壺が、身体を固くして震えている。
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