
興福寺の衆徒らは、鎌倉武士から重衡の身柄を引き取ると、処分について評議した。
「重衡卿は大罪を犯した極悪人で、ついにその報いを受けるときが来た。仏敵、法敵の逆臣だ。東大寺と興福寺の大垣のまわりを隅々まで引き回し、生きながら首まで地中に埋めて首をはねるか、それとも鋸で首を引くかすべきだろう」
衆徒の中からは、そんな荒っぽい意見もでた。
しかし、最後は、老僧たちの、「そういう乱暴なやり方は、仏に仕える僧としてはどうかと思う。ここは武士に引き渡して、木津の辺りで斬らせるのがよかろう」という意見にまとまった。
武士らは重衡の身柄を受け取って、木津川の端でいよいよ斬ろうとしているところへ、衆徒や武士、見物人らが群衆をなして集まって来た。
重衡に数年来仕えている武士に、知時という者がいる。
八条の女院 (鳥羽天皇皇女) にも顔を知られた者だが、重衡の最期を見届けようと、都から馬にムチ打って駆けつけてきた。
そして、まさに斬られようとしているところに到着し、急ぎ馬から飛び降りると人々をかき分けて、重衡に近づいた。
「殿、知時が、殿の最期を見届けるために参りました」
「知時の気持ち、とてもうれしく有り難く思う。ところで、一つ頼みがある。今のままでは、私自身あまりに罪深く思えるので、仏を拝みながら死にたい。何とかならないだろうか」。
「承知しました」というと、知時は警護の武士に話をつけて、近くの里から仏を一体、お迎えした。
仏は、幸いにも阿弥陀如来。川原の砂の上に据え、知時が着ている狩衣のくくりひもを解き、片方を阿弥陀如来の手におかけし、もう片方を重衡に持たせた。
重衡は、阿弥陀如来に語りかける。
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「お聞きしたことがあります。調婆達多 (提婆達多) は三逆罪を犯し (生きながら無間地獄に落ちるといわれる)、無量の法門 (仏の教え) を蔵する経典を焼き滅ぼしてもなお、
釈迦から来世で天王如来になるといわれました。
罪業はまことに深いものですが、そのことが仏道に入る機縁となり、尊い教えに導かれて悟りを開き、往生を遂げたといいます。
わたしが犯した罪は、私の本意ではありませんでした。世の習いに従ったまでです。この世に生を受けた者の誰が、王命を断ることができましょうか。この世に生きる者の誰が、父の命に背くことができましょうか。
勅命と父の命令には、逆らえません。
視聴率がずいぶん低いようですね。