
『平家物語』に登場する女性たちの多くは都の生まれで、なよなよとした非力なタイプである。
男に頼って生きるほかない、か弱い存在として描かれている。
女性とはそういうものだという、『源氏物語』をはじめとする王朝文学の美意識を引きずっているのだろう。
そんな『平家』に、巴が、義仲滅亡のときに突如として現われ、戦場を荒馬で駆け回っては大の男をねじ伏せる。
しかも、絶世の美女だ。
もし、王朝文学に巴のような男まさりの女性が登場していたら、がさつで醜い大女に描かれるのが関の山だったろう。
ここに、王朝の美意識を卒業しつつある『平家』独自の女性観がある。
…… ……
○さればこのたびも、多くの者ども落ち行き討たれけるなかに、七騎がうちまで巴は討たれざりけり。
今度のいくさでも、多くの兵たちが敗走したり討たれたりしたなか、残りの7騎になるまで巴は討たれなかった。
○木曾三百余騎、六千余騎が中を縦さま・横さま・蜘蛛手(くもで)・十文字に駆け割つて、後ろへつつと出でたれば、五十騎ばかりになりにけり。
義仲軍の300余騎は、敵勢6千余騎の中を、縦に、横に、八方に、十文字に駆け破り、敵軍の後方へつつっと抜け出たところ、50騎ほどになっていた。
○そこを破つて行くほどに、土肥次郎実平(どひのじらうさねひら)二千余騎で支へたり。
そこを突破すると、土肥次郎実平が2千余騎で防いでいた。
○それをも破つて行くほどに、あそこでは四、五百騎、ここでは二、三百騎、百四、五十騎、百騎ばかりが中を駆け割り駆け割り行くほどに、主従五騎にぞなりにける。
それも突破して、あちらで4、5百騎、こちらで2、3百騎、また百四、五十騎、さらに百騎ほどを駆け破り駆け破りしていくうちに、義仲主従5騎になってしまった。
○五騎がうちまで巴は討たれざりけり。
5騎になっても、巴は討たれなかった。
…… 原文に忠実な訳ではありません ……
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