『正史』とは文脈の異なる『裏(温羅)伝説』において、吉備出身の吉備津彦命を鬼ノ城に押し込めて百済渡来の王子・温羅とでっち上げた大和政権は、温羅すなはち吉備津彦命が本拠地とした鬼ノ城を破壊することはできなかった。
今のうちに疑問をもう一つ、自分に課しておこう。
白村江の戦いにおいて唐・新羅連合軍に惨敗はしたものの、百済は共に戦った味方である。
その友好国の王子をなぜ、極悪非道の悪鬼に仕立てたのだろうか。
それはさておき、祟りを朝野に畏怖された存在という意味で、吉備津彦命は菅原道真の遙かな先人に当たる。
日本書紀から始まる正史(六国史)は、いうまでもなく、最終的な勝者である大和の大和による大和のための歴史書だ。
天皇家の正当化と権威付けのために史実を捻じ曲げたり、恣意的にあること無いことを並べたりしている。
とはいっても、天武が記・紀神話を編纂させて、「これが日本国の正当な歴史である」という形で人々に周知させようとしたのは、統治者たらんとする人物のアイデアとしては、実に効果的で賢いやり方だと思う。
豪族ごとのあるいは地域ごとの様々な伝承を天皇家の伝承に吸収し、かつそれを文字化・体系化する過程において、天皇家にとって都合の悪いところは排除しつつ、伝承を統一的に客観化しようとしたわけだ。
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