A子さんは仕事ひとすじ、アラフォー会社員。

 

若い頃から恋愛には淡白で、

 

ずっと独身をつらぬいています。

 

 

後輩たちからもう死語とバカにされましたが、

 

〈バリキャリ〉の走りを自認しています。

 

 

大卒で大手食品会社に総合職として入社。

 

いまは販促部門のチームリーダーです。

 

 

メンバーは6人。A子さんを除く

 

全員が20代という若いチームです。

 

 

中でも黒一点のB君がムードメーカー。

 

入社まだ3年目の最年少で、

 

いつも明るくフレンドリーな話し方で

 

周りを盛り上げています。

 

 

特にA子さんが感心するのは、

 

彼の〈言葉のセンス〉です。

 

先日もこんなことがありました。

 

 

季節は10月に入ったばかり。

 

外気は夏の暑さを残しています。

 

A子さんの信条は〈おしゃれ命〉

 

その日の服装で、仕事の効率も

 

上がったり、下がったり……

 

 

おしゃれは足元から、と思い切って

 

ショートブーツで出社しました。

 

パステルカラーのスーツで

 

初秋のコーディネートです。

 

 

自信のファッションとはいえ、

 

心の内では「ブーツ、早くない?」と、

 

声をかけられるかも……?

 

多少の不安もありました。

 

 

そんな不安を吹き飛ばしてくれたのが、

 

朝いちばんにオフィスで顔を合わせた

 

B君の、このあいさつでした。

 

 

「おはようございます。

 

 あ、素敵なブーツ。先輩は、いつも

 

 一歩先を歩いていますね

 

 

(ほんと調子のいいヤツね)とは思っても、

 

思わず顔がほころぶ嬉しい一言でした。

 

 

おしゃれの基本は〈季節の先取り〉です。

 

つまり〈衣替え〉を他人より

 

早めに実行するところにあります。

 

 

四季の移ろいをにらみながら、

 

誰よりも早くファッションで先取りする。

 

ちょっぴり勇気が必要なことでもあります。

 

 

(ちょっと早いかな?)

 

 

そんな本人の不安を打ち消し、強く肯定する

 

B君のあいさつは、まさに〈技あり〉でした。

 

 

しかも、ブーツにかけて

 

「一歩先を歩いていますね」

 

この表現にもセンスの良さを感じます。

 

 

これだけ言葉の才能に恵まれていれば、

 

B君のこれからの会社人生は

 

順風満帆であるに違いありません。

 

 

 

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